北欧ヤンソンのセルフ・カヴァー
最近、欧州ジャズのピアノが楽しい。欧州ジャズのピアノは、一言で言うと、ファンクネスが希薄で透明度が高い。テクニックがあって端正で破綻が無い。アドリブ・フレーズは流麗。タッチは硬質。クラシック・ピアノと相対しても遜色の無い、アーティスティックなインプロビゼーション。
ジャズ雑誌に掲載される2016年の「ディスク・グランプリ」の結果を見ていて、Lars Jansson(ラーシュ・ヤンソン)のアルバムが挙がっていた。ラーシュ・ヤンソンも日本ではメジャーな存在になったなあ。ラーシュ・ヤンソンは、1951年スウェーデン生まれ。今年65歳。いかにも北欧のピアニストらしい繊細なピアノを弾く。ファンクネスは皆無。しかも湿り気無く、とことんドライ。このカラッとしたところが、ラーシュ・ヤンソン独特の個性。
そんなラーシュ・ヤンソンのセルフ・カヴァー集が、このLars Jansson Trio『More Human』(写真左)である。昨年の作品になるのだが、これがまあ素晴らしい内容なのだ。ちなみにパーソネルは、Lars Jansson (p), Thomas Fonnesbeak (b), Paul Svanberg (ds)。鉄壁のトリオ。
もともとラーシュ・ヤンソンは良い曲を書く。北欧ジャズ独特のリリカルで繊細なピアノが十二分に活きる、透明度の高い印象的な旋律を持った秀曲ばかり。ヤンソンの場合は、彼のオリジナル曲ばかりでアルバム全体を構成されていても全く問題が無い。逆に、北欧ジャズの特質がグッと浮き出てくる。
このアルバムでは、そんなラーシュ・ヤンソンの自作曲の中から人気の高い「モア・ヒューマン」「マリオネット」「マザーズ・イン・ブラジル」「ホープ」を始めとして、ラーシュ・ヤンソン自身が15曲を厳選してセルフ・カヴァーしているのだ。ジャズではこういうセルフ・カヴァー集は珍しいのだが、ヤンソンとしては、この若手のベースとドラムを迎えた「このトリオ」で再録したかったのだろうと推察する。
その目論見はバッチリ当たっている。もともとの曲が良いのだから、もちろん、この現時点でのラーシュ・ヤンソン・トリオでの演奏は素晴らしいの一言。適度な緊張感、心地良い演奏の「音の密度」、北欧ジャズ独特の透明感、どれをとっても極上の演奏である。新旧の演奏を比較すれば良く判るのだが、現時点でのトリオの「表現力の柔軟性の高さ」と「創造力のバリエーションの豊かさ」が良く判る。
こういうセルフ・カヴァー集もありやなあ、と思わず確信してしまうほど、このセルフ・カヴァー集はその狙いをしっかりと実現している。非常に優れた内容の企画盤である。また、ジャケット・デザインも秀逸。最近のアルバム・ジャケットを描いているのは孫娘のヒルダで、今作品のジャケットも彼女の作品とのこと。まさに「優れた内容のジャズ盤のジャケットは決まって優秀」である。
震災から5年10ヶ月。決して忘れない。まだ5年10ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
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