こんなアルバムあったんや・75
レジェンド級のジャズ・ジャイアントの残したリーダー作の中では、幾枚か「異色盤」とされるユニークな内容のアルバムが必ずある。この「異色盤」については、その内容を紐解くことによって、リーダーであるジャズ・ジャイアントの本来の個性を再認識することが出来るものが多い。
Bud Powell『A Portrait of Thelonious』(写真左)。1961年12月、パリでの録音。ちなみにパーソネルは、Bud Powell (p), Pierre Michelot (b), Kenny Clarke (ds)。Cannonball Adderley のプロデュース。同時期に欧州に渡っていた、ビ・バップなドラマー、ケニー・クラークが、ベースはフランスのビ・バップなベーシスト、ピエール・ミシュロが参加している。
ビ・バップの祖の一人、モダンジャズ・ピアノの祖、バド・パウエルの晩年の録音。37歳の録音だが、この録音の5年後、42歳で鬼籍に入ることになる。麻薬に溺れ、精神状態に支障を来し、欧州はパリに活動の場を移したパウエルが、この異国の地パリで録音した、これまた珍しい「セロニアス・モンク」の自作曲を中心に収録したアルバムである。
これまた珍しい、というのは、セロニアス・モンクの自作曲というのは、独特のタイム感覚と独特の旋律を持つ楽曲ばかりで、ハイテクニックのもと、高速アドリブ・フレーズを旨とするビ・バップには意外と合わないところがあって、特に、バド・パウエルのプレイ・スタイルには絶対に合わない、と思ってしまうのだ。
で、興味津々でこのアルバムを聴くと、思わず「クスリ」と笑ってしまう。あの癖のある、独特のタイム感覚と独特の旋律を持ったセロニアス・モンクの楽曲が、パウエルの手によって解体され、なんとパウエルの自作曲の様に、パウエルのプレイスタイルにフィットした曲の様に様変わりしているのだ。モンクの楽曲の個性がパウエルの強烈な個性にとって変わってしまっている。
このアルバムに収録されたセロニアス・モンクの自作曲については、パウエルの手にかかると、モンクの曲と直ぐには判らない位に、デフォルメされている。しかしながら、このパウエルの強烈な個性によるデフォルメについて、違和感が全く無いところが凄い。デフォルメされた後のフレーズの響きが良好で、全く別の曲の様な魅力的な響きを宿しているところが面白い。
この『A Portrait of Thelonious』を録音した当日のパウエルは、体調面・精神面共に比較的調子が良かったとのことであるが、このアルバムの聴くとそれに納得する。とはいえ、もはやパウエルは晩年のパウエル。指がもつれたり、ミスタッチをしたりする箇所もあるが。ピアノの響き、フレーズの響きが良好で全く気にならない。
晩年のプレイを聴くにつけ、最盛期のハイ・テクニックを駆使して弾きまくった、煌びやかな「ビ・バップ」なプレイに隠れてしまった、パウエルのピアノの歌心、ピアノやフレーズの響きの個性がとっても良く判る。思わず「こんなアルバムあったんや」と呟いてしまう、パウエル晩年の好盤です。
震災から5年10ヶ月。決して忘れない。まだ5年10ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
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