ピアノ・トリオの代表的名盤・57
ジャズ雑誌に掲載される2016年の「ディスク・グランプリ」の結果を見ていて、やはり、このピアニストが常連になって来たな、とほくそ笑んでいる。
1955年生まれ。今年で62歳になる。1980年代のデビューなので、ジャズメンとしては遅咲きである。ジャズ雑誌やジャズ本にその名が挙がってきたのは、つい5年ほど前なのではなかろうか。僕も3年ほど前にやっと彼の名前に気がついた。Fred Hersch(フレッド・ハーシュ)。
かなり破天荒な人生を歩んでいる。デビュー当時は麻薬とHIV。1980年から1986年にかけて、ニューイングランド学院で教鞭をとる。2008年、HIVウィルスが脳に転移し、生命の危険に見舞われるが、リハビリの結果再び演奏活動に取り組むことができるようになる。それからである。その名前がメジャーになり出したのは・・・。
Fred Hersch『Sunday Night at the Vanguard』(写真左)。昨年リリースのライブ盤。Fred Hersch (p), John Hebert (b), Eric McPherson (ds)。2016年3月、NYの老舗ライブハウス、ビレッジ・ヴァンガード(略して「ビレバガ」)でのライブ録音。
冒頭の「A Cockeyed Optimist」を聴くと、このピアノ・トリオはその辺によくある、エバンス派とかパウエル派と呼ばれる、ピアノ・トリオの先達のイメージを引き継ぐものでは無いことに気がつく。圧倒的に「個性的」である。美しい耽美的な響きが芳しい右手、良く動く左手、モンクを彷彿とさせる幾何学模様のようなフレーズ。
そう、このハーシュのピアノって、ビル・エバンスとセロニアス・モンクを合わせて2で割った様な「耽美的なモンク」な風情が素晴らしく個性的なピアノなのだ。メロディアスなフレーズとフリーキーなインタープレイが拮抗し、相見える展開。ビ・バップ、ハードバップな香りは皆無。現代音楽の様な独特な静謐感と透明感が独特である。
こんな個性的なジャズ・ピアノが、この21世紀になって存在するなんて、思わず言葉を失った。HIVとの闘病生活の中、決して健康な身体では無い。年齢的にも60歳を過ぎている。これからどこまで彼のピアノは発展するのか、どこまで彼のピアノを愛でることができるのか、確約される様な状況ではないのだろうが、明らかに僕はこの人のピアノの明日を期待する。
それほどまでにこのフレッド・ハーシュのピアノは個性的であり、唯一無二である。ビレバガ独特の音の響きと相まって、一期一会のライブ盤に仕上がっている。見事である。
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