音楽喫茶『松和』の昼下がり・39
ジャズは裾野が広い。ミュージシャンの数はごまんとあり、演奏のスタイルもバリエーション豊か。20年、30年とジャズを聴き続けて来ても、時に「あぁ、こんなジャズメンがいたんや」と感心したり、「あぁ、こんなアルバムあったんや」と感じ入ったりすることがある。
このアルバムとの出会いもそうだった。今から10年ほど前になるだろうか。このピアノ・トリオ盤を聴いた時は「こういうジャズ・ピアニスト、アルバムを埋もれさせておくわけにはいかない」と強く思ったものだ。自ら発掘し自ら聴き自ら感じる。これが「ジャズ者」の醍醐味である。
そのアルバムとは、Jimmy Wisner『Apperception』(写真左)タイトルの難しそうな英語「Apperception」とは、心理学や哲学、認識論における概念で「統覚」と訳される。難しいタイトルやなあ、と、タイトルに怯んだら負け。聴けば判るが、硬質なタッチ、シンプルながらも味わい深いフレーズ。洒落て小粋なグループ・サウンズ。
1960年、ニューヨークでの録音。ちなみにパーソネルは、Jimmy Wisner (p), Milt Hinton, Ace Tesone (b), Osie Johnson, Dave Levin (ds)。ニューヨークでの録音の割に、パーソネルを見渡して、あまり東海岸ジャズの雰囲気が無い。曲によってパーソネルが変わるのだが、その差がよく判らなくて、聴いていてあまり気にならない。
改めて注釈を加えるが、このピアノ・トリオ盤はジャズ者の間でもかなりマイナーな部類である。恐らく、ジャズを聴き初めて10年程度の「ジャズ者中堅」の方々でも、恐らくこの「ジミー・ウィズナー」というピアニストは知らないのではないだろうか。
実は僕もそうで、10年前まで、この「ジミー・ウィズナー」というピアニストを知らなかった。マニアックなジャズ盤紹介本からの情報とちょっとお洒落なジャケットが決め手だった。「ジャケも良いし、聴いておいて損は無いか」くらいのノリでこのピアノトリオ盤を手にしているのだから面白い。
しかし、一度聴けば、ピアノ・トリオ者の方々であれば、恐らくこのアルバムはお気に入り盤の一枚に昇格すること請け合いである。突出した個性がある訳では無い、趣味の良いカチッとまとまったピアノ・トリオです。リズム・セクションが安定していて、聴いていてその安定感は抜群。
ウィズナーのピアノは、安定、安心の硬質タッチ。シンプルで流麗なアドリブ・フレーズ。テクニックはそこそこなんですが、音の選び方、重ね方、響きが小粋でカッチリしている。聴き易さがあって、逆にいうと、強烈な個性に欠ける。それでも、品の良いピアノ・トリオの響きがそれを凌駕する。
スタンダード曲中心の選曲もグッド。意外と録音も良くて、ピアノ、ベース、ドラム、それぞれの楽器の響きも心ゆくまで楽しめる。知る人ぞ知る、隠れ好盤の一枚です。
震災から5年6ヶ月。決して忘れない。まだ5年6ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
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