新しい「新主流派の音の響き」
Chico Freeman『Tradition In Transition』(写真左)。邦題『輪廻学(りんねがく)』。なんと物々しい邦題なのか(笑)。「輪廻」とは、仏典などに見られる用語で、人が何度も転生し、また動物なども含めた生類に生まれ変わること。ジャズとどういう関係があるんだろう(笑)。
1982年のリリース。ちなみにパーソネルは、Chico Freeman (ts, fl, b-cl), Wallace Roney (tp), Clyde Criner (p), Cecil McBee (b), Jack DeJohnette (ds, p), Billy Hart(ds)。中堅どころとフレッシュな新人と新旧上手く合わさったカルテット構成。
アルバムを聴き始めて、冒頭セロニアス・モンクの曲を実にスタイリッシュに吹きこなすのを聴いて、うむむ、これはチコ・フリーマンの「モンク曲集」か、と思い始める。モンク作の曲は冒頭の「Jackie-ing」のみで、他の曲のほとんどがフリーマン+メンバーの作。
しかし、このフリーマン+メンバーの自作曲のどれもがモンクの曲想を踏襲していて、本当にこの盤って「モンク曲集」なん、って思ってしまうくらい、モンクモンクしたアルバムである。このモンクモンクしたところが、コルトレーンの様に吹くが、コルトレーンの音世界とはちょっと違う響きになっている。
加えて、ウォレス・ルーニーのトランペットが入っているので、もはやコルトレーンのカルテットとダイレクトに比較されることは無い。しかも、このウォレス・ルーニーとチコ・フリーマンのブロウには新しい響きが宿っていて、1960年代後半の新主流派の音を更に発展させた感じの音世界。聴き応え十分である。
自由度の高い、高度なテクニックに裏打ちされた「モーダルな演奏」と、吹きたいように吹くという動機に素直に従った「フリーな演奏」が上手くミックスされていて、メインストリームなジャズであるが、1982年当時のジャズとしては、かなり新しい響きに満ちている。今となっては、当たり前のアプローチになってはいるが、当時は新しかった。感じ入ったことを昨日のことの様に覚えている。
チコ・フリーマンは、80年代ジャズ復権の旗手として嘱望されたシカゴ出身のサックス奏者。コルトレーンの様に吹く新進サックス奏者として頭角を現した。そして、その評価を覆し自らの個性を獲得すべく、様々なアプローチにチャレンジしていく。このアルバムもそんな「チャレンジ」のひとつ。モンクの曲想をベースに、新しい新主流派の音の響きにチャレンジしている。
1980年代のメインストリーム・ジャズの好盤の一枚です。こういうアルバムが徐々に出てきて、1980年代後半の「純ジャズ復古」の大号令につながっていくんですね。この盤に詰まっている「新しい新主流派の音の響き」は実に魅力的です。
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