続・ハービーのアレンジの才能 『The Prisoner』
このアルバムはなかなか手に入らなかった。今から40年前、ジャズを聴き始めた頃、ハービーのリーダー作1枚前の名盤『Speak Like a Child』は容易に手に入るのだが、このアルバムはどうにも手に入らない。ずっと懸案の様なアルバムだった。
そのアルバムとは、Herbie Hancock『The Prisoner』(写真左)。1969年4月の録音。ちなみにパーソネルは、Herbie Hancock (key), Johnny Coles (flh), Garnett Brown (tb), Joe Henderson (ts, alto-fl), Buster Williams (b), Tootie Heath (ds), Tony Studd (b-tb), Hubert Laws (fl), Jerome Richardson (b-cl, fl), Romeo Penque (b-cl)。
部分的に、ハービーはエレピを弾いてはいるが、基本はアコースティック・ジャズ。楽器の構成を見渡すと、アルト・フルートやバス・トロンボーン、バス・クラリネット、フリューゲル・ホルンなどが採用されている。音の基本は、前作の名盤『Speak Like a Child』と同様、ハービーのアレンジの才を振るった、楽器のユニゾン&ハーモニーを活用したモーダルなジャズである。
聴いてみるとその印象は全く強くなる。前作『Speak Like a Child』と対をなす、姉妹盤の様な内容に惚れ惚れする。フリューゲルホーン、ベース・トロンボーン、アルト・フルートの3管アンサンブルの採用は、前作『Speak Like a Child』と全く同じ。しかし、前作の様なロマンチシズムは感じられない。
曲のタイトルを見渡すと「I Have A Dream」「The Prisoner」「He Who Lives In Fear」など、通常のジャズ曲のタイトルでは無い、社会派なタイトルである。
そう、このアルバムは、ハービーがマーティン・ルーサー・キングとその黒人市民権運動に触発されたものであり、録音の1年前、1968年に銃弾に倒れたマーチン・ルーサー・キングへのオマージュになっている。
前作の『Speak Like a Child』よりもホーンのアレンジの切れ味が良く繊細であるがゆえ、音がダイナミックに展開する。紛れもない、ハービーのアレンジの才、全開の傑作の一枚。モーダルな演奏で、音の幽玄な拡がりも魅力的。このアルバムが『Speak Like a Child』とは違って、なかなか入手するのに苦労したことが理解出来ない。
このアルバムは、ハンコックがマイルスのもとを離れて初めて作ったアルバムであり、このハービーのアレンジによるフリューゲルホーン、ベース・トロンボーン、アルト・フルートの3管アンサンブルのフロントを張るのは「マイルス」ではなかったのでしょうか。
マイルスはエレクトリック・ジャズに走りましたが、ハービーはこのアレンジを活かしたアコースティックなモード・ジャズをマイルスとやりたかったんやないかなあ、などど想像を巡らしたりします。
ジャケット・デザインがブルーノートらしからぬ、社会派的なデザインで、ハービーも当時流行のファッションに身を包んでおり、このジャケットからくる印象で、ちょっと損をしているのかもしれません。確かに、僕がこのアルバムを手にしたのは、1990年代後半でした。ルディ・バン・ゲルダーのブルーノート・リマスターが一般的になってからです。
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