ピアノ・トリオの代表的名盤・50
僕はケニー・バロン(Kenny Barron)のピアノが良く判らなかった。癖が無い。流麗かつ端正である。テクニックは優秀。ファンクネスは希薄。それでいてドライブ感は旺盛。グイグイ弾きまくる力強さはある。逆に繊細な表現も出来る。とにかく器用なピアニストである。
つまりは「これ」といった決定打に欠けるが、平均的に素晴らしいプレイを聴かせてくれる、僕にとってはつかみ所の無い「不思議なピアニスト」だった。でも、バロンのプレイを聴き始めると、じっと聴き入ってしまう。そういう魅力のあるピアノである。僕はそんなバロンに初めて出会ったアルバムがこれ。
Kenny Barron『Scratch』(写真左)。1985年3月の録音。ちなみにパーソネルは、Kenny Barron (p), Dave Holland (b), Daniel Humair (ds)。ケニー・バロンは1943年生まれだから、バロンが42歳の時の録音。円熟期に差し掛かる前の、中堅時代の録音になる。
バリバリに弾きまくるバロンが聴ける。デイブ・ホランドのベースのサポートも重厚。ダニエル・ヒューメイヤーのドラムの疾走感も魅力だ。思いっきりスインギーで、インプロビゼーションの弾き回しはモダン。それまでにありそうで無かった弾き回しと音の重ね方は新しい響きだった。
リリカルではあるが耽美的では無い。切れ味鋭いが鋭角な鋭さでは無い。奇をてらった革新的な響きは皆無。アブストラクトな展開にも無縁。とにかくバリバリに弾きまくる。ネオ・ハードバップにつながる正統派な展開。でも、このアルバムを初めて聴いた1993年の頃には、このバロンの魅力が理解出来なかった。
しかし、今は判る。癖が無く端正なところがバロンのピアノの個性。平均的に素晴らしいプレイを聴かせるところが、いわゆるピアニストとしての総合力の高さが個性。ハードバップから当時、純ジャズ復古の時代まで、こういうピアニストはいなかった。何かしら強烈な個性を持ったピアニストは多く存在した。しかし、バロンの様な、総合力で勝負する、癖が無く端正な個性を持ったピアニストは存在しなかった。
この『Scratch』を聴けば、その「個性」の一端を十分に感じていただけると思います。これだけ端正で流麗な、それでいてドライブ感のあるピアノはなかなか他に無い。冒頭の「Scratch」から、ラストの「And Then Again」まで一気に聴き通してしまいます。迫力あるバロンのピアノ。聴き応え十分。
現代的なイラストをあしらったアルバム・ジャケットも魅力的。バロンのピアノの個性をとても良く表していると思います。エンヤ・レーベルからのリリースなのも魅力的。ホレスト・ウェーバーのプロデューサーの手腕も冴えまくっています。良いピアノ・トリオ、良いアルバムです。
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