僕の「究極のクリスマス盤」
僕にとっての「究極のクリスマス盤」は、Simon & Garfunkel『Parsley, Sage, Rosemary and Thyme』(写真左)。1966年のリリース。S&G初の米国のビルボードトップテン入り(最高位4位)した名盤である。即席であった前作『Sound of Silence』とは違い、じっくり腰を据えて制作された本作の完成度は非常に高い。
アルバム・タイトルは英国民謡「スカボロー・フェア」の歌詞の一節からの引用。その英国民謡「スカボロー・フェア」でこのアルバムは幕を開ける。繊細で美しいメロディに思わず聴き惚れてしまうが、2曲目以降の曲を聴き進めるにつれ、このアルバム、そんな甘さなど無縁なのに気付く。
このアルバムがリリースされた1966年の米国は政治的に混沌とした時代。このアルバムは、ほのぼのとした長閑な音世界では無く、社会の矛盾や不正を告発する「メッセージ」が織り込まれた、実に硬派で骨のあるフォーク・ソング集になっている。
冒頭の「スカボロー・フェア」を聴けばそれが良く判る。単に英国民謡をデュオで唄っている訳では無い。正式なタイトルは「スカボロー・フェア/詠唱」。ポール・サイモン作詞作曲の「サイド・オブ・ア・ヒル」のものを「詠唱」として「スカボロー・フェア」と対比させることによって、秀逸な反戦歌に仕上がっている。
この「スカボロー・フェア/詠唱」に感じ入って、2曲目以降になだれ込む。「Patterns」「Cloudy」「Homeward Bound」と社会風刺、望郷の歌。続いて「The Big Bright Green Pleasure Machine」「The 59th Street Bridge Song (Feelin' Groovy)」「The Dangling Conversation」「Flowers Never Bend with the Rainfall」。
ジャズっぽいコード感を持った曲や前衛的なパーカッション、内省的で沈着なムードが漂う風刺的な曲もあれば、歌詞の面白さを十二分に楽しませてくれる曲もある。「A Simple Desultory Philippic (Or How I Was Robert McNamara'd into Submission)」「For Emily, Whenever I May Find Her」「A Poem on the Underground Wall」と続く。
そして、何と言ってもこのラストの曲である。「7 O'Clock News / Silent Night」。邦題「7時のニュース/きよしこの夜」。これは強烈な印象を残してくれる、究極のクリスマス・ソングである。
S&Gの厳かな「きよしこの夜」が流れる中、そのバックにニュースのアナウンスが流れている。公民権法の法案、レニー・ブルースの訃報、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアのデモ行進の予定、リチャード・スペックの公判、ベトナム戦争の反対運動。
この曲を初めて聴いたのが中学生の時。バックのニュースがどんな内容なのか判りませんでしたが、その雰囲気は、明らかに「きよしこの夜」の対極にある内容なんだろう、ということはアナウンサーの口調から想像できました。
そして、そのバックのニュースの内容をしっかりと理解したのは高校1年生の冬、思わず旋律が走りました。敬虔さ、神聖さ、楽しさが中心のクリスマス・ソングとは対極にある、社会の矛盾、課題を突きつける究極のメッセージ・ソングがここにあります。そして、歌が終わった直後にニュースのアナウンサーが一言「Good Night」。
なんとも言えない「いいようの無い無念さと虚しさ」と同時に「明日の希望を感じる余韻」が漂います。このアルバムは僕の「究極のクリスマス盤」。必ず、12月25日、クリスマス・シーズンの締めに聴くアルバムです。
震災から4年9ヶ月。決して忘れない。まだ4年9ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。
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