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2015年12月11日 (金曜日)

ジャズ喫茶で流したい・72

今を去ること35年前。ジャズを聴き始めた頃、当時は「これはあかん、真っ当に聴かれへん」と敬遠していたフリー・ジャズ。不思議なもんで、ジャズを聴き続けて20年ほど経った頃から、スッと憑きものが取れた様に、フリー・ジャズが聴ける様になった。

それから、定期的にフリー・ジャズを聴いている。まあ、相当にアブストラクトでフリーキーな演奏ばかりである。そうそう毎日、聴き続けることは出来ない。一週間に1枚もしくは2枚程度かなあ。それでも、フリー・ジャズについては、全く抵抗無く聴ける様になった。

さて、そんなフリー・ジャズであるが、そのアルバムが発売された当時は、完全にフリー・ジャズな演奏だと感じていたのに、今の耳で聴くと意外とそうではなく、限りなくフリーではあるが、どちらかと言えばモーダルなジャズなんではないか、と感じるアルバムが多々ある。

例えば、このアルバムがそうである。Archie Shepp『Steam』(写真左)。1976年5月の録音。当時、西ドイツのニュルンベルグでの「East-West Jazz Festival」のライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Archie Shepp (ts,p), Cameron Brown (b), Beaver Harris (ds)。シェップ自身がピアノを弾いているが、テナーを吹きながら、同時にピアノは弾けないので、ピアノレス・トリオと解釈して良いだろう。

シェップのフリーなブロウの特徴が良く判るのが、冒頭の「A Message from Trane」。演奏時間約19分の長編。ジョン・コルトレーンに捧げられた演奏なのだが、シェップは、彼の個性を前提にしながら、コルトレーンのフレーズ、吹き方を真似て吹きまくる。
 

Archie_shepp_steam

 
シェップのブロウは良い意味で「軽い」。フリーキーなフレーズが軽快に展開される。そして、アドリブ・フレーズが判り易く、聴き易い。疾走するブロウの中で、安定した和音感覚を駆使して、判り易く聴き易いフレーズを叩き出していく。難解で捻れた不協和音をひねり出すことは無い。そして、コルトレーンの様に「馬の嘶き」の様なアブストラクトな咆哮を吹きまくることは無い。

以下の収録曲を見渡すと、1970年代のシェップはスタンダードをフリーに演奏した。このアルバムでもスタンダード曲を好んで採り上げている。これが面白い。フリー・ジャズな演奏は決まって本人のオリジナル曲であることが殆どなのだが、シェップはスタンダード曲を採用して、これを限りなくフリーな演奏で軽快に解釈していく。

1. A Message from Trane (Cal Massey)
2. Solitude (Eddie DeLange, Duke Ellington, Irving Mills)
3. Invitation (Bronislaw Kaper, Paul Francis Webster)
4. Ah-Leu-Cha (Charlie Parker)
5. Steam (Archie Shepp)
6. 52nd Street Theme (Thelonious Monk)

5曲目の「Steam」だけが、シェップの自作曲。1曲目の「A Message from Trane」はカル・マッセイ作の、4曲目の「Ah-Leu-Cha」はチャーリー・パーカー作のミュージシャンズ・チューンを採用しているところが渋い。

Enjaレーベルの音質の良い録音も特筆すべき特徴。フリーキーなフレーズが軽快に展開される。限りなくフリーではあるが、どちらかと言えばモーダルなジャズの響きが実に軽快である。良いアルバムです。フリー・ジャズ入門盤としても最適でしょう。

 
 

震災から4年8ヶ月。決して忘れない。まだ4年8ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。 

Never_giveup_4

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コメント

こんにちは
フリー・ジャズを週に1回も聞くのですね
さすがって感じです
自分もと思いましたが、自分はその手のCDは1枚も持ってないのに気がつきましたw
自分は、アヴァンギャルドなジャズ、フリー・ジャズ、フリー・フォーム、アブストラクトなジャズなどのきちんとした違いもよく解りません
でもアヴァンギャルドなフリー・ジャズという文言は成り立つようなので、アヴァンギャルドなこととフリーなことが違うということは解りました
仕方が無いのでフリー・ジャズの香りがそこはかたなくするCDでも聞いておきます

どうもkuraさん、松和のマスターです。
 
フリージャズとは言っても、必要最小限な決め事がそれぞれあって、
その決め事に従って自由に吹くので、フリージャズとかアバン
ギャルドジャズとか言っても、ある部分、定型の部分があるんで、
意外と聴けますよ。

特に、1960年代のフリージャズと呼ばれるものは今の耳で聴くと、
激しい演奏を前面に出したモードジャズの一種と感じます。といって、
フリー・ジャズを聴かないとジャズが判らないという類のもの
でも無いので、無理に聴く必要も無いのでは、と常々思っています。
 
 
ジャズの演奏スタイルの裾野は広いですからね〜。
 

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