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2015年5月19日 (火曜日)

世界に誇れる山下洋輔トリオ

若い頃、今から30年くらい前になるかなあ、フリー・ジャズは苦手だった。とにかく本能のおもむくまま、感情のおもむくままに好き勝手に吹きまくる。必要最低限の決め事はあるのだが、とにかくフロントのサックスが吹きまくる。

バックのリズム・セクションは意外にトラディショナルに、モードをベースに自由度を高めてはいるが、純粋フリーな演奏では無い。とにかくフロント楽器だけが吹きまくる。そして、ドラムはただ好き勝手に叩きまくるだけ。ベースは好き勝手に掻きむしりつづけるだけ。吹きまくり方も意外とバリエーションに乏しい。激しいが意外とワンパターンなブロウが多い。

それが長時間、延々と続くのだ。フリー・ジャズは聴き続けていると、だんだんに飽きてくる。どうにもこうにも、フリー・ジャズというジャンルの演奏は、「音楽」という要素に欠けるのだ。音を楽しむ要素に欠ける、つまり、聴き手にかなりの「我慢」を強いているということになる。

しかし、若い頃、苦手なはずのフリー・ジャズではあるが、この人達のフリー・ジャズは結構聴けた。山下洋輔トリオである。日本のフリー・ジャズは意外と聴けた。聴いていて気が付くのだが、日本の優れたフリー・ジャズは「音楽」という要素をしっかりと押さえている。これが恐らく良い方向に作用するのだろう。

その好例として、山下洋輔トリオ『イン・ヨーロッパ 1983 - complete edition -』(写真左)というアルバムがある。パーソネルは、山下洋輔(p)、武田和命(ts)、小山彰太(ds)の山下洋輔トリオ + 林栄一(as)。1983年7月8日、ドイツ「ハイデルベルク・ジャズ・ターク」でのライブ録音。

この山下洋輔トリオ+1のフリー・ジャズは、その当時の米国そして欧州のフリー・ジャズとはちょっと質が異なる。本当の意味でのフリー・ジャズと言えるのでは無いか。4者4様ながら、一斉の「せーの」で、ドッシャンバッシャンとフリー・ジャズをやる。誰かがリズムをキープし、誰かがビートをキープしているなんてことは無い。4人4様でフリーなアドリブ・フレーズを連発する。
 

Yosuke_yamashita_in_europe_1983

 
それじゃあ「混沌」として音楽どころじゃあないでしょう、と思いきや、これがしっかりと「音楽」している。4人4様でフリーな演奏をしている中で、示し合わせた様にユニゾン&ハーモニーを展開したり、チェイスしたりする。これが聴いていて楽しいのだ。

そして、ピアノの山下洋輔が素晴らしい。最初から最後までフリーなのだ。セシル・テイラーを目指しながら、セシル・テイラーでは無い。山下洋輔のフリーなピアノが炸裂しまくる。ピアノの様々な奏法、テクニックを駆使しながら、フリーなフレーズを叩きまくる。このフリーなピアノ、意外と米国や欧州で「ありそうで無い」。

ドラムの小山彰太がこれまた凄い。叩きまくる叩きまくる。しっかりとバリエーション豊かにリズム&ビートを叩きまくる。この様々なバリエーション豊かなリズム&ビートというところが、意外と米国や欧州で「ありそうで無い」。

そして、フロントの武田和命のテナーと林栄一のアルトが個性的。抑制の効いた、良く考えた、バリエーション豊かなブロウが素晴らしい。本能のおもむくまま、感情のおもむくままに吹かない、ピアノをしっかりと聴きながら、ピアノに呼応するようなフリーなフレーズを展開。

この山下洋輔トリオ+1のフリー・ジャズは「グループ・サウンズ」を前提としたフリー・ジャズである。「音楽」という要素をふんだんに散りばめながら、4人4様でフリー・ジャズをやる。これが意外と米国や欧州で「ありそうで無い」。

つまりは、この山下洋輔トリオ+1は「聴いて楽しいフリー・ジャズ」。世の中の様々なジャンルの音楽の要素が詰め込まれつつ、そんなこと、おくびにも出さずに、ドッシャンバッシャンとフリー・ジャズをやる。かなりの長尺な演奏だが、あっと言う間に聴き終えてしまう。

 
 

震災から4年2ヶ月。決して忘れない。まだ4年2ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。 

Never_giveup_4

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