ハッチャーソンの新主流派ヴァイブ 『Happenings』
1960年代、理知的でクールなスタンダード・ジャズの演奏スタイルを得意とする若手ミュージシャンの集団が出現した。「新主流派」と名付けられた集団である。
1960年代半ばがピーク。理知的でクールで、素晴らしいテクニックに裏打ちされた鋭いタッチ、切り込むような音。それでいて、ジャズの基本を忠実に保持して、決して破綻しないクールな演奏。そして、流行の新しい奏法もその中にどんどん取り込む貪欲さ。今のジャズ・シーンでもそのフォロワーは後を絶たない。絶大な人気を持つ演奏スタイルである。
時代を少しさかのぼる。ジャズの歴史上、1950年代、ミルト・ジャクソンがモダン・バイブの奏法を確立〜飛躍させたわけだが、そのミルトが偉大であった分、ミルトに続く、リーダー格のバイブ奏者がなかなか現れない。やっと、1960年代に入って、ボビー・ハッチャーソンが頭角を現したのである。
ボビー・ハッチャーソンは考える。ミルトと同じことをやっていては、いつまでもミルトと比較されてしまう。さてどうしようか、ということで、彼はミルトとは異なる表現テクニックでその地位を築いていったのである。
当時、「新主流派」と呼ばれる、若手中心のジャズの伝統的奏法に則りながらも前衛性を重視し、理知的な演奏をする集団があったのだが、その「新主流派」のイディオムに則ったジャズ・バイブに邁進したのであった。
ハッチャーソン自身のご紹介はこれくらいにして、彼の特徴・個性が良く判るリーダー作を聴いてみよう。Bobby Hutcherson『Happenings』(写真左)。ブルーノートの4231番。1966年2月の録音。ちなみにパーソネルは、Bobby Hutcherson (vib), Herbie Hancock (p), Bob Cranshaw (b), Joe Chambers (ds)。
冒頭の「Aquarian Moon」から、いかにも新主流派らしい、ハードバップな展開の中に新しい響きを感じるリズム・セクションの演奏。そんなリズム・セクションの演奏にハッチャーソンのバイブが絡む。すると、ピーンと張った緊張感とクリスタルな透明感溢れる響きが演奏全体に漲る。しかし、演奏の雰囲気はホットだ。
そんな新しい響きを湛えた名演が4曲目の「Maiden Voyage」。邦題「処女航海」。このアルバムでもピアノを担当しているハービー・ハンコックの名曲である。
ハービー自身のバージョンが暖かな海を悠々と堂々と航海に乗り出す雰囲気だとすると、このハッチャーソンのバージョンは、氷山が遠くに見えるような厳冬の海を凛とした雰囲気で、緊張感をもって航海する雰囲気。ピンと張った緊張感と全体を覆う透明感はとにかく「素晴らしい」の一言。
そして、極めつけは、ラストの「The Omen」。アブストラクトな演奏で、演奏形式はフリー・ジャズですが、その雰囲気は「氷の音楽」。流氷が奏でる音楽の様な、素晴らしく透明感をもったフリーなジャズ演奏です。
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