ハードバップ期の最高のバンド
やっと体調が回復基調になって、ほっと一息である。風邪が原因のお腹の不調。丸2日間、伏せっていたことになる。暖かくして、とにかく伏せっていれば治ると言われたが、術後の不安は大きい。とにかく伏せっていたのだが、耳だけは元気なので、寝室に備え付けのサブのステレオで、日頃、なかなかまとめて聴けないボックス盤を聴いていた。
そのボックス盤とはMiles Davis『The Complete Columbia Recordings of Miles Davis with John Coltrane』(写真)。CD6枚組の魅力的なボックス盤である。タイトルから判る通り、コロンビア・レーベルに残された、マイルスとコルトレーンのセッションの記録である。録音時期としては、1955年10月26日から1961年3月21日まで。ジャズの歴史でいう「ハードバップ期」のほぼ全体を網羅する。
アルバムとしては『'Round About Midnight』『Milestones』『Kind of Blue』『Someday My Prince Will Come』『Miles Davis at Newport 1958』『Jazz at the Plaza/1958 Miles』を網羅する。加えて、LP時代の未発表音源集『Circle in the Round』とCD4枚組のコンピ・ボックス盤『The Columbia Years 1955ー1985』に収録された音源を含んでいる。
このCD6枚組ボックス盤を聴き通して感じるのは、さすがアコースティック・マイルスは他のどのコンボよりも優れており、クールであるということ。そして、マイルス・バンドの演奏は、まず最優先事項として、常にマイルスのトランペットがクールに美しく、前面に出ているということ。リーダー盤としては当たり前のことだが、マイルス・バンドは、このリーダーのマイルスを一番に押し出すことに徹底している。この徹底度合いは他のバンドには無い。
といって、サイドメンは後ろに引っ込んで地味にやっているかと言えばそうではない。あらん限りのテクニックとノウハウを駆使して、かなり高度でかなりクールなバッキングを展開しているのだ。そういうことが出来る、ジャズメンとしての優れ者の集まりが、当時のマイルス・バンドであり、アコースティック・マイルスの音世界なのだ。
コルトレーンは、確かにマイルス・バンド加入当初のプレイは「へたくそなテナー」と揶揄されても仕方ないな、というところもあるが、マイルスと年を重ねるにつれ、どんどんテクニックは高みに達し、演奏ノウハウもバリエーション豊かに溜まってく。そして、コード奏法を凌駕して、マイルスの薫陶を得て、モード奏法を体得する。そう、コルトレーンはモード奏法を「体得」している。
そして、Disc5、Disc6の、アルバムで言う『Miles Davis at Newport 1958』『Jazz at the Plaza/1958 Miles』辺りのコルトレーンのアドリブはとてつもなく長い。ある逸話が残っている。
コルトレーンがマイルスに相談する。「アドリブが長いと言われるので、適当なところでアドリブを止めたいのだが、どうやって止めて良いのか判らない」。マイルスが苦笑いしながらコルトレーンにアドバイスする。「トレーン、そういう時は、マウスピースから口を離すのさ。そうすればアドリブは止められる」。
そういう逸話が良く理解出来るほど、コルトレーンのアドリブは長い。そして、シーツ・オブ・サウンドが度を超えて吹きまくられている。少し五月蠅いくらいだ。しかし、そこにマイルスのペットが入ってくると、バンドの音世界はガラッと変わる。クールで美しい、優雅なハードバップにガラッと変わる。なるほど、コルトレーンのテナーはマイルスを惹き立たせる最高のパーツなのだ。そして、コルトレーンがこのことに我慢できなくなった時、マイルスの下から離れていくのだ。
そして、このCD6枚組ボックス盤に収録された別テイク毎の演奏のバリエーションを聴いていると、ジャズって本当に「即興の音楽」だということが判る。そして、優れたジャズメンの集まりでは、そのアドリブの展開のバリエーションが豊富で、本当によくこれだけ色々なパターン、展開でアドリブを展開するもんだなあ、とただただ感心してしまう。
このCD6枚組ボックス盤には、ハードバップ期の最高のバンドの演奏がギッシリと詰まっている。なにかと批判されることの多いボックス盤だが、手に入れて聴くとなかなかに楽しめる。意外とお勧めのボックス盤である。
★震災から3年11ヶ月。決して忘れない。まだ3年11ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。
★Twitterで、松和のマスターが呟く。名称「松和のマスター」でつぶやいております。ユーザー名は「v_matsuwa」。「@v_matsuwa」で検索して下さい。
« ガーランド者の御用達盤 『When There Are Grey Skies』 | トップページ | ガーランドのブルース曲集 『Red in Bluesville』 »
« ガーランド者の御用達盤 『When There Are Grey Skies』 | トップページ | ガーランドのブルース曲集 『Red in Bluesville』 »
コメント