ハード・バップの成立 『At The Cafe Bohemia』
ジャズ評論家の行方均さんが、『A Night At Birdland With Art Blakey Quintet』の演奏を捉えて、「もしハード・バップ誕生の時と場所というものが世の中にあるとしたら、本作の録音された1954年2月21日深夜のバードランドをおいて他にない」とした。
よって、ジャズ入門本やジャズ雑誌などでは、ハードバップの誕生の時期の演奏と言えば『バードランドの夜』となる。ブルーノートの1521番と1522番である。
しかし、どうして、僕はこちらのライブ盤も『バードランドの夜』に負けてないぞ、と思っている。そのライブ盤とは、『The Jazz Messengers At The Cafe Bohemia, Vol. 1&2』(写真)。ブルーノートの1507番と1508番。1955年11月23日、ニューヨークのライブ・スポット、カフェ・ボヘミアでのライブ音源になる。
ちなみにパーソネルは、Kenny Dorham (tp), Hank Mobley (ts), Horace Silver (p), Doug Watkins (b), Art Blakey (ds)。ピアノのホレス・シルバーとドラムのアート・ブレイキーは『バードランドの夜』と変わらない。ベースがダグ・ワトキンスに代わり、ペットのケニー・ドーハムとテナーのハンク・モブレーがフロントの2管を張る。
この『カフェ・ボヘミア』の演奏の充実した内容、演奏のレベルの高さを聴けば、もしかしたら、「もしハード・バップ誕生の時と場所というものが世の中にあるとしたら、本作の録音された1955年11月23日のカフェ・ボヘミアをおいて他にない」となっても、不思議は無いと思う。
演奏全体を見渡して、それぞれのジャズメンの力量と演奏レベルのバランスが実に良くとれていて、それぞれの楽曲の演奏内容がかなりのレベルで充実している。『バードランドの夜』の個々の演奏と比べて、僕はこの『カフェ・ボヘミア』の演奏の方が、演奏全体のまとまりとしては上位に来ると感じている。
まず、ケニー・ドーハムのトランペットが絶好調である。僕は、このライブ盤を聴いて、このトランペットはケニー・ドーハムだとは思わなかった。芯のある豊
かでふくよかな音色、よれることの無い確かなテクニック、端正で疾走感のある速くて正確な運指。これって、ドーハム一世一代の名演である。
そして、テナーのハンク・モブレーも絶好調である。力強く滑らかなブロウ。ポジティブで誠実なテクニック、端正で疾走感のある速くて正確な運指。これがモブレーか、と一瞬、耳を疑う、モブレーに失礼なんだが、らしからぬブロウ(笑)。それほどまでに、第一線をゆくテナー。これがモブレーの真骨頂なのだ、と改めて感心する。
ホレス・シルバーも何時になく好調。ブルージーなフレーズを連発。確かなテクニック、正確な運指。濃厚に漂うファンクネス。ダグ・ワトキンスのベースは太くて伸びやか。あまり話題にならないワトキンスのベースだが、どうして、このベースは当時のベースとしてはかなりモダンである。
アート・ブレイキーのドラミングを聴けば、『バードランドの夜』は『カフェ・ボヘミア』の1年7ヶ月も前の演奏なんだ、ということを再認識する。『カフェ・ボヘミア』でのブレイキーのドラミングは確実に進化している。『カフェ・ボヘミア』では、確信を持って「ハードバップな」ドラミングを披露する。揺るぎないブレイキーのハードバップ・ドラミング。
『バードランドの夜』を「ハード・バップ誕生の時と場所」とするなら、この『カフェ・ボヘミア』は「ハード・バップ成立の時と場所」とでも形容しようか。この『カフェ・ボヘミア』で、ハードバップは成立し、その演奏スタイルが確立された。そして、ハードバップが要求する演奏レベルもここにサンプルとして提示されたのである。
しかし、『バードランドの夜』といい、この『カフェ・ボヘミア』といい、ブルーノート・レーベルは本当に良いライブ録音をする。さすがは、アルフレッド・ライオン。その慧眼の成せる技である。
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