新旧ハードバッパーの交流 『Stardust』
通常、一般の人々の「ジャズの音」のイメージは「ハードバップ」だろう。ハードバップの演奏スタイルの音が、一番、ジャズらしいと言えばジャズらしい。1950年代からずっと進化を続けている「ハードバップ」。ハードバップは、1950年代から1960年代前半の流行ものではないのだ。
ハードバップは、1980年代の「メンストリーム・ジャズ復古」のムーブメントの中で、再び、脚光を浴び、再び、進化を始めた。例えば、この1987年6月の録音の、Benny Golson With Freddie Hubbard『Stardust』(写真左)を聴けば、その「進化」の部分が実感出来る。
ちなみにパーソネルは、Freddie Hubbard (tp, flh), Benny Golson (ts), Mulgrew Miller (p), Ron Carter (b), Marvin "Smitty" Smith (ds)。このパーソネルを見れば、その「進化」の部分が想像出来る。
トランペットのフレディー・ハバードとテナー・サックスのベニー・ゴルソン(写真右)は、1950年代から第一線で活躍してきた、ベテランのハードバッパー。懐かしい響き。逆に、新しいサプライズは無い。演奏のスタイルもフレーズも従来のハードバップを踏襲している。
逆に、ピアノのマリュグリュー・ミラーとドラムのマービン・スミッティ・スミスは新しいハードバッパー。1980年代の「メンストリーム・ジャズ復古」のムーブメントに乗って出現した、新しい感覚を持ったハードバッパーである。フレーズの展開、リズム&ビートの新しい響き。明らかに「新伝承派」の音である。
そして、その新旧のハードバッパーの間を取り持つのは、新旧ハードバップの両刀遣いの、ベースのロン・カーター。このロンのベースが、ハバードとゴルソンの旧ハードバッパーと、ミラーとスミスの新ハードバッパーとの間を取り持って、奏法のハードバップの響きに対応した、柔軟なベースラインを提供する。
この『Stardust』というアルバムを聴いていると面白いのは、ハバードとゴルソンの旧ハードバッパーが吹き進めると、その演奏の雰囲気は、グッと1960年代前半のハードバップの音に染まる。録音が新しいので、音の響きは1980年代なんだが、演奏の雰囲気は1960年代前半。
しかし、ミラーとスミスの新ハードバッパーの演奏に代わると、その演奏の雰囲気はガラッと変わる。ハードバップが、1960年代後半以降、モード奏法やフリー・ジャズ、クロスオーバー・ジャズからフュージョン・ジャズの時代を経験してきた、その音の経験を織り交ぜた、新しいハードバップな音がする。
明らかに1950年代から1960年代前半のハードバップの音の雰囲気・作りとは異なる音に思わず「おおっ」と身を乗り出したりする。そこに1960年代前半のハードバップの音が乗っかってくると、これまた、新しいハードバップの音になる。この変化がまた、聴いていてとても楽しい。
ハバードとゴルソンの旧ハードバッパーと、ミラーとスミスの新ハードバッパーの対比が面白いアルバムです。さすがに一流どころで固めたメンバーだけに、演奏のレベル、テクニック共に優秀。1980年代の「メンストリーム・ジャズ復古」のムーブメントの中の優秀盤だと思います。
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