「私小説ポップス」に思わず唸る
台風が2週連続で来るみたいで、ちょっと閉口気味の今日この頃。それでも、季節は全くの「秋」である。あの蒸し暑かった夏は夢だったのか、と勘違いしてしまいそうな、ダイナミックな季節の変化に改めて感心する。
普段はメインにジャズを据えてアルバムを聴き進める訳だが、さすがに長時間、ジャズを聴き続けると耳が疲れる。といって、バーチャル音楽喫茶としては、音楽が流れていない時間はあり得ない(笑)。僕の場合、ジャズの合間の耳休めのアルバムとしては、1970年代のロックであったり、Jポップであったりする。
今日は1970年代Jポップ。この「秋たけなわ」の季節、必ず毎年引き出してきて聴くアルバムが何枚かある。その中の一枚が、松任谷由実『OLIVE』(写真左)。松任谷由実になってからの3枚目のオリジナル・アルバム。1979年7月20日のリリース。
帯紙のキャッチ・コピーは「未来を先駆した話題の新曲「帰愁」「稲妻の少女」等の創作をずらりとそろえついに発表したユーミンのキラキラ輝くときめきのニューアルバム!」とある。未来を先駆した曲とは、未だに良く判らない表現なんだが、僕にとっては、それまでの日本のポップスには無かった「私小説」的な歌詞が衝撃的だった。
音の雰囲気は響きが静謐で豊か。清秋の空の様な澄み切った空気感。このアルバムの雰囲気は、日本の季節で言うと「秋」。逆に「秋」の雰囲気にしか合わないアルバムの響きが詰まっている。つまりは、この松任谷由実『OLIVE』は秋に聴くべきアルバムなのだ。
このアルバムに収録された曲の歌詞が凄い。大学時代、僕はこのアルバムを手にして、思わず唸った。こんな歌詞は、それまでのJポップではとても珍しかった。それまでのJポップの歌詞の世界は、あの人を好きになった、あの人に振られたとか、惚れた腫れた失恋した、の話がほとんど。それもあまり現実感の無い「惚れた腫れた」の、直接的、主観的な話がほとんど。
しかし、この『OLIVE』というアルバムに詰まっている歌の世界は、実に「リアル」で「客観的」。それまでのJポップの歌詞の世界の真逆で、この歌詞の世界には「唸りに唸った」。
例えば、冒頭の「未来は霧の中に」は、東京オリンピックや1969年のアポロ月面着陸というイベントを具体的に織り込んで、その時代と当時の自分を対比させて展開する歌詞で私小説的。続く「青いエアメイル」は失恋の歌詞だが実に具体的。
3曲目の「ツバメのように」はタイトルからして、空をツバメの様に飛ぶ、なんていう爽やかで夢想的な歌詞かと思いきや、飛び降り自殺をした少女を題材に、その自殺現場をリアルに描写し、その少女の自殺に至る心情を客観的に冷徹に語る。この「ツバメのように」の歌詞を初めて聴いた時には、背筋に戦慄が走ったことを覚えている。
ハイ・ファイ・セットに提供してヒットした「冷たい雨」だって、実にリアルに女性のメッタメタな失恋状況を描写している。「部屋に戻ってドアを開けたら、あなたの靴と誰かの赤い靴」なんて、思いっきりリアルで、これも思わず背筋に旋律が走る。
そして、絶品はラストの「りんごのにおいと風の国」。晩秋に向かいつつある10月の終わり。ひたむきにある男性を追いかける女性の情緒的な心情と深まる秋の風情を織り交ぜて、独特の静謐で鮮烈な「大人のおとぎ話」を現出している。
このアルバムに詰まったユーミンの歌詞の世界には驚いた。驚愕したと言って良い。そして、この私小説的な歌詞は、松任谷正隆氏の絶妙なアレンジによって、豊かな静謐感と澄み切った空気感を伴って、唯一無二なユーミンならではの音世界を聴かせてくれる。僕は、この『OLIVE』というアルバムにして、ユーミンという才能を確認した。
アルバム・ジャケットのデザインも先進的だった。横木安良夫の撮影による絶品で、1960年代のイタリアンなデザインで、構成としてはファッション雑誌風の構成で統一されている。このジャケット・デザインにも当時「唸った」。
今の秋たけなわの季節には、このユーミンの『OLIVE』というアルバムが良く似合う。我がバーチャル音楽喫茶『松和』では、毎年、秋たけなわの季節に流れる、季節限定の「耳休みアルバム」です。
震災から3年7ヶ月。決して忘れない。まだ3年7ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。
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「松和」マスターさま はじめまして。ふぁんふぁんといいます。
素晴らしいブログですね。ブログを開設したばかりで、先輩方のブログのご挨拶に回らせて頂いています。
ユーミンのoliveというアルバムは聞いたことありませんが、マスターさまの記事を読むと是非聞いてみたいと思うようになりました。
また時々来させて頂きます。もしよろしければ、私のブログにもおいで頂けますか。
投稿: ふぁんふぁん | 2014年10月13日 (月曜日) 19時06分