音楽喫茶『松和』の昼下がり・17
1970年代、クロスオーバー・ジャズからフュージョン・ジャズの時代。このクロスオーバーやフュージョンの演奏をバックにしたジャズ・ボーカルというのがなかなか無かった。8ビートが中心、しかも電気楽器が主役の演奏である。ボーカルにとって、このクロスオーバーやフュージョンの演奏をバックに歌うのはかなり大変なことだったと思う。
学生時代、1980年の夏のことである。本当に無いのかなあ、と思いながら、例の「秘密の喫茶店」に足を運ぶ。エアコンの効いた涼しい部屋の中、カウンターで珈琲をいただきながら、ママさんに尋ねる。クロスオーバーやフュージョンをバックに唄うジャズ・ボーカル盤って無いですよね、って。
すると、ニコッと笑って「ありますよ」と応えて、かけてくれたのがこのアルバムである。Dee Dee Bridgewater『Just Family』(写真)である。
1978年リリースの第3作目。プロデューサーがなんと、あのリターン・トゥ・フォーエバーのチックの相棒、スタンリー・クラーク(Stanley Clarke)。このプロデューサーの名前を見るだけで、このアルバムの演奏は、クロスオーバー・ジャズ系なんだな、と判る。ジャケットも素晴らしい。アフリカン・アメリカンを十分に想起させる、アフリカン・ネイティブなジャケットは僕は大好きだった。
ディーディーの歌は、純ジャズのトラディショナルな女性ボーカルのスタイルでは無い。ディーディーの歌い方は、当時の「ソウル・ミュージック」の歌い方、R&B系の歌い方である。そんな女性ジャズ・ボーカルの中では明らかに異端扱いされていた。厳しいジャズ者の方々は「これはジャズでは無い」と断言する始末。バックは当時流行のクロースオーバー・ジャズ系の演奏なんですが(笑)。
しかし、これは紛れもなく「ジャズ」でしょう。バックの演奏がまず上質のクロスオーバー・ジャズ。演奏するジャズメンが、プロデューサーのスタンリー・クラーク繋がりで選出されていて、これはもう当時第一線で活躍していたクロスオーバー系のジャズメンばかりがズラリと並ぶ。細かくはご紹介しないが、それはそれは、当時の人気クロスオーバー系ジャズメンのオンパレード。
そんなぶ厚くファンキーなR&B風のクロスオーバーなリズム&ビートに乗りながら、ディーディーが思いっきりソウルフルにガンガンに唄いまくる。ファンクネス溢れソウルフルで疾走感が素敵なディーディーの歌唱は爽快である。このブラコンばっちりの歌唱に、僕は当時度肝を抜かれた。これなら苦手なジャズ・ボーカルだっていける、と思いましたね。
後のフュージョン・ジャズがソフト&メロウが基本だとすれば、このディーディーの『Just Family』は、ファンクネス溢れソウルフルが基本で、これはクロスオーバー・ジャズの個性である。ブラコンとジャズのクロスオーバー。そこに、ディーディーが唄いまくる。
1980年夏、あの「秘密の喫茶店」の昼下がり、このDee Dee Bridgewater『Just Family』が鳴り響き、皆、刮目して耳を傾ける。誰が歌ってるんや。ディーディーって誰や。僕もそう思った。ディーディーって誰や。僕のディーディーとの初めての出会いであった。
そして、2014年の夏。あれから34年を経て、バーチャル音楽喫茶『松和』の昼下がりに、このDee Dee Bridgewater『Just Family』が鳴り響いている。このアルバムの音は「あの頃」と全く変わらない。
震災から3年4ヶ月。決して忘れない。まだ3年4ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。
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