寺井尚子はガンガンに弾きまくる
日本を代表するジャズ・バイオリン奏者の寺井尚子。最新作『Very Cool』は、久し振りに「ジャジーな雰囲気」が嬉しいアルバムであった。
どうも『My Song』あたりから、ジャズ・アルバムというよりは、イージーリスニング寄りの耳当たりの良い、聴き心地の良いアルバムをリリースするようになったなあ、という印象があって、どうにもこれはなあ、という感じで、どうにも具合が良くなかった。
しかし、遡れば、この『Adagio(アダージョ)』(写真左)までは、しっかりと純ジャズ基調の「ジャジーな雰囲気」の内容で、今一度聴き直してみても、なかなか聴き応えがある。
今日、つらつらとこの『Adagio』を聴き直してみたんだが、ジャズ・バイオリンの音って、夏の雰囲気になかなか合う。といっても、部屋の外の夏の強い日差しを眺めながらのエアコンの効いた静かな部屋の中でのこと(笑)。決して、汗をダラダラ流しながら聴いて爽快な音では無い。
さて、この『Adagio(アダージョ)』は、冒頭の「Time To Say Goodbye」から、超絶技巧なクラシック・バイオリンの様に、テクニックを駆使して、バイオリンを弾き倒している。鬼気迫るアドリブ。あまりのテンションに、このアルバム・タイトルはちょっと違うんやないのか、とも思ってしまう。ちなみに、「Adagio(アダージョ)」の意味は「くつろぐ」という意味。
3曲目の「Premier Amour」から、落ち着いた雰囲気の、まさに「Adagio(アダージョ)」な雰囲気になる。それでも、寺井のバイオリンは超絶技巧なアドリブ展開を緩めない。ガンガン弾きまくる。う〜ん、これでは確かに、バイオリン・ジャズにムーディーな雰囲気を求める向きには合わんなあ。でも、僕にはこの純ジャズ貴重な雰囲気が良いんやなあ。
もともと、ジャズ・バイオリンのマイナー調の響きには、ラテン調、スパニッシュ調の調べがバッチリと合うんだが、この5曲目の「Sometime Ago - La Fiesta」には参った。僕の大のお気に入りピアニスト、チック・コリアの名曲である。これがまあ、バイオリンの調べがバッチリ合う。
結構、難度の曲なんだが、寺井尚子は超絶技巧なテクニックを駆使して、思いっきり弾き倒していく。特に「La Fiesta」の部分のアドリブ展開には惚れ惚れする。よくぞこの難曲をバイオリンで制圧した、天晴れである。チック者の僕にとっては、この『Adagio(アダージョ)』というアルバムは、この「Sometime Ago - La Fiesta」の名演だけで満足のアルバムである。
以降、「Clignancourt」「The Key Of The Heart」等々、ひとつ間違えば、甘い砂糖菓子の様なムード音楽に陥りそうな曲を、超絶技巧なジャズ・バイオリンで、テンション高く弾き倒していく。とにかく「爽快感抜群」である。
ちなみにパーソネルは、寺井尚子 (vln), 北島直樹 (p), 店網邦雄 (b), 中沢剛 (ds, per)。純日本のメンバーによるカルテット編成。このアルバムで、寺井尚子のジャズ・バイオリンの個性が定まったといっても良い。しかし、あまりにしっかりと純ジャズ基調の「ジャジーな雰囲気」の内容で、バイオリン・ジャズにムーディーな雰囲気を求めるニーズには応えられない。
あくまでこれは想像ではあるが、このアルバムを境に、「人気を上げ、アルバムの売り上げを向上する」という厄介なレコード会社の要請にも応えるべく、次のアルバムからは、イージーリスニング寄りの耳当たりの良い、聴き心地の良いアルバムを指向する様になる。
これもまた、プロのミュージシャンとして仕方の無いこと。決して批判されることでは無い。が、寺井のジャズ・バイオリンのジャズ性を評価する「聴く方」としては、どうにもこれはなあ、という感じで、どうにも具合が良くない時期が暫く続くことになる。
震災から3年4ヶ月。決して忘れない。まだ3年4ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。
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