ここまでくるとジャズじゃ無い
ジャズは色々な音楽ジャンルの要素を取り込むことに柔軟なフォーマットで、歴史的に俯瞰してみても、その時代時代において、その時代のトレンドとなる音楽ジャンルや要素を上手く取り込んだり融合したりで、その時々の流行となるジャズのスタイルを生み出してきた。
ファンキー・ジャズ、ソウル・ジャズ、クロスオーバー・ジャズ、フュージョン・ジャズなどがその好例だし、今のジャズ・シーンを眺めて見ると、ハウスを取り込んだり、ヒップホップを取り込んだり、ユーロを取り込んだりで、ジャズは「融合の音楽」と呼んでも良いくらいの柔軟さである。
しかし、あまりにその柔軟度を高めていくと、今度は「これはジャズじゃ無い」という状態に陥ってしまう訳で、それはそれで仕方の無いことかな、なんて思ったりもしている。「これはジャズである」という最低限の決め手は、最終的にはジャジーなリズム&ビートにあると思っているが、このジャジーなリズム&ビートが欠落すると、どうも我々の様な「聴き手」からすると「これはジャズじゃ無い」といことになる。
ここに、Norah Jones『...Little Broken Hearts』(写真左)というアルバムがある。デビューアルバム『Come Away With Me』の大ヒットにより、一世を風靡したノラ・ジョーンズのスタジオ録音盤の第5作目である。
もともと、デビューアルバムは、ジャズの老舗ブルーノート・レーベルからのリリースであったという上に、アルバムの音世界は、今風のジャジーなリズム&ビートを上手く活かしたものだったので、当時は、上質でコンテンポラリーなジャズ・ボーカルとして受け入れられ、大ヒットした。つまりは、何か懐かしい小粋でブルージーな雰囲気が大いにウケたのである。
しかし、この5作目『...Little Broken Hearts』を聴くと、さすがにここまでくると、これは「ジャズじゃ無い」。ジャジーなリズム&ビートがほとんど感じられない。アレンジの一環として、ジャジーなリズム&ビートを採用している楽曲もあるが、アルバム全体の雰囲気を決定付けるほどの位置づけの楽曲でも無い。
前作の『The Fall』までは、カントリーやブルース、ソウル・ミュージックなどの米国ルーツ・ミュージックをそれとは判らぬように、今風の楽器を駆使しつつ秀逸なアレンジで取り込み、リズム&ビートの底にはしっかりとジャズのエッセンスが流れていて、コンテンポラリーなジャズ・ボーカル盤として解釈することが出来た訳だが、さすがに今回の作品には、前作までの特徴が全く無い。
さすがに、今回のノラの『...Little Broken Hearts』はジャズじゃ無い。老舗ブルーノート・レーベルからのリリースではありますが、決してジャズではありません。これはもう「オルタナ」でしょう。上質な「オルタナ」として聴けばしっくりくる音世界。くすんだエコーのかかったボーカルも納得の「オルタナ」です。
しかし、凄い方向転換というか、新しい音世界への飛翔というか、この思い切りの良さは何なんでしょう。ノラ・ジョーンズという才能の懐の深さと決断の大胆さを強く感じます。さすがと評価すべきでしょう。
とにかく、4作目までのノラ・ジョーンズの印象でこの5作目のアルバムを聴くと、必ず「混乱」します。もはや、これは今までのノラ・ジョーンズとは思わず、全く新しい新人の登場と思って、フラットに聴いた方が、このアルバムの音世界をすんなり理解出来ると思います。
しかし、ノラ・ジョーンズも困ったアルバムを出してくれるなあ(笑)。真に才能のある人は、凡人が理解出来ない転身を平気で実行してしまうから凄い。
恐らくこの5作目『...Little Broken Hearts』も、あと十年ほどして、ノラ・ジョーンズの過去を振り返ってみる時期が来た時に、正統な評価を得ることの出来るアルバムでは無いか、と思っています。
震災から3年3ヶ月。決して忘れない。まだ3年3ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。
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