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2014年7月12日 (土曜日)

チャーラップのピアノの「個性」

1966年10月生まれなので、今年で48歳になる。48歳ともなれば、ジャズ界では中堅。つい最近まで、若手ピアニストの有望株だと思っていたのに、月日の経つのは早いものである。そのピアニストとは、ビル・チャーラップ(Bill Charlap)のこと。

ビル・チャーラップのピアノは一言で言うと「古いスタイルだが新しい」。チャーラップのピアノのベースは「ビ・バップ」。1940年代後半から50年代前半にかけての「ビ・バップ・ピアノ・トリオ」とは違う、緩急、濃淡、強弱を様々に織り交ぜた、複雑な、色彩豊かな「ビ・バップ・ピアノ」が特徴。いわゆる「温故知新」である。

加えて、リリカルで耽美的な演奏にその特徴がある。「リリカルで耽美的な」ジャズ・ピアノの表現は、エバンス派の専売特許だったが、このチャーラップの表現は、エバンス派のそれとは全く異なる。あくまで、「ビ・バップ」の表現方法の中での「リリカルで耽美的な」ジャズ・ピアノなのだ。

このチャーラップのピアノの特徴を実に良く捉えたアルバムがある。Bill Charlap『'S Wonderful』(写真左)。1998年12月の録音。ちなみにパーソネルは、Bill Charlap (p), Peter Washington (b), Kenny Washington (ds)。

とにかくとことん「リリカル」なアルバムである。しかし、リリカルと言えばビル・エバンス、エバンス派の代表的スタイルと言えば、チャーラップくらいの中堅ピアニストであれば「モーダル」なピアノがベースになるはずなんだが、チャーラップは違う。チャーラップの基本は「ビ・バップ」である。リリカルでバップなピアノ。それ以前のジャズでは聴いたことの無い響き。
 

S_wonderful

 
リズム&ビートを支える、ケニー・ワシントンのドラムやピーター・ワシントンのベースも、基本は「ビ・バップ」。しかし、昔の様に単純にリズム&ビートを支えることに徹するのでは無い、柔軟に緩急をつけつつ、硬軟自在、変幻自在にリズム&ビートを支え続ける。ビ・バップなジャジーなノリが凄く心地良い。

このアルバムのリリースは「ヴィーナス・レコード」からのリリース。日本人的なプロデュースと日本人好みな過剰なエコー、そして、エロティックなジャケット・デザインと、僕はあまり好きでは無いレーベルなんだが、このチャーラップの『S'wonderful』は、ちょっと違う。

選曲については、いかにも日本のジャズ者ベテランの方々が喜びそうな、知る人ぞ知る、ちょっとマニアックなスタンダード曲を選択しているところが鼻につくが、チャーラップの奏でるフレーズは新しい感覚。このチャーラップの「ビ・バップ」の表現方法の中での「リリカルで耽美的」なピアノが、このアルバムを凡百なハードバップ盤としてしまう危険性を回避している。

逆に言えば、このアルバムはビーナス・レコードだからこそ、リリース出来たとも言える。これだけ、知る人ぞ知る的な選曲、過剰なエコー、エロティックな女性のジャケ写、という内容であれば、米国のレーベルからは、まずリリースされることは無いと思う。

僕はこの『'S Wonderful』のチャーラップが好きだし、この路線でチャーラップは走るべきだと評価している。そう意味では、チャーラップは、自らの音楽の主戦場は米国よりは欧州にシフトすべきだろう。この『'S Wonderful』のチャーラップの音世界は、実に個性的で魅力的だ。

もっともっと、チャーラップのリーダー作を聴かなければ、そう思わせる優秀盤である。

 
 

震災から3年3ヶ月。決して忘れない。まだ3年4ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。 

Never_giveup_4

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