ジャズ喫茶で流したい・53
ジャズの世界では、日本のレーベル制作のアルバムは押し並べて評判が悪い。聴き手に迎合するプロデュース、売上第一とする選曲とアレンジ。古典的なハードバップで、思いっきりスタンダードな曲を演奏する。譜面が用意されているような、定型的な展開とアドリブ。面白味が全く無い、イージーリスニングの様なジャズ。
しかし、たまに日本のレーベル制作のアルバムにも優れものが存在する。だから、日本のレーベル制作だからと聴かず嫌いは、ちょっとマズい。例えば、Diwレーベルなどは、なかなか内容の良いアルバムを多くリリースしたりしている。例えば、David Murray『Love and Sorrow』(写真左)などはその好例だ。
デヴィッド・マレイ(David Murray)は、1955年2月生まれの米国のテナー奏者。彼のテナーのスタイルは、コールマン・ホーキンスやベン・ウェブスターのスタイルを吸収した「オールド・スタイル」。決して、コルトレーンのフォロワーでは無い。日本のレーベルの制作盤なのに、この現代ジャズの「オールド・スタイル」なテナーに着目するなんて、なかなか粋なことをする。
1993年9月の録音。リリースは2000年11月。えらく長い間、お蔵入りやったんやなあ、とちょっと不思議に思う。しかも、日本のDiwレーベルからのリリース。日本のレーベルが、自らが録音した音源をここまで長い間、お蔵入りとしたなんて、ちょっと意外だ。
ちなみにパーソネルは、David Murray (ts), John Hicks (p), Fred Hopkins (b), Idris Muhammad (ds)。ピアノのジョン・ヒックスは知っているが、ベーシストとドラマーは知らない。限りなくフリーなネオ・ハードバップを基調とするカルテット集団であることは確か。
全編に渡って、マレイの野太くも繊細なテナーがとにかく良い。コルトレーンの様に、超絶技巧なシーツ・オブ・サウンドを執拗に繰り広げるのでは無い、コールマン・ホーキンスやベン・ウェブスターのスタイルを吸収した「オールド・スタイル」なテナーで情感豊かに、力強くフリーキーに、時に優しく吹き上げていく。
ジョン・ヒックスのピアノも良い。こんなに情感タップリに、超絶技巧に弾き倒すピアニストやったんや、と思いっきり感心した。リーダーのマレイは勿論良いが、このアルバムの隠れたヒーローは、このピアノのヒックスだ。むっちゃセンスの良いアドリブ・フレーズなど、感動の嵐である(笑)。
さて、収録曲を並べてみると以下の様になる。さすがに、日本のレーベルの制作、思いっきりスタンダード・ナンバーが3曲。ほほぅとジャズ者ベテランが感心する、隠れた小粋なスタンダード・ナンバーが2曲。マレイの自作曲が1曲。まあ、バランスの取れた選曲ではある。
1. You'd Be So Nice To Come Home To
2. Old Folks
3. Forever I Love You
4. Sorrow Song
5. A Flower Is A Lovesome Thing
6. You Don't Know What Love Is
良いアルバムです。決して、メジャーなアルバムではないんですが、とにかく内容は良く、カルテットの演奏も好調そのものです。こんな小粋で内容充実なアルバムが、さりげなく流れてくるジャズ喫茶って素敵です。
★震災から3年4ヶ月。決して忘れない。まだ3年4ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。
★Twitterで、松和のマスターが呟く。名称「松和のマスター」でつぶやいております。ユーザー名は「v_matsuwa」。「@v_matsuwa」で検索して下さい。
« 寺井尚子はガンガンに弾きまくる | トップページ | テナーでもオーネットはオーネット »
David Murrayは、1986~96頃にDIWに20枚以上のリーダー作を残しています。準リーダー作も含めると30枚近くになるんじゃないでしょうか。
一時は毎月のようにDIWから新譜が出て、「月刊David Murray」なんて言われてましたね。私も最初の数枚は追いましたが、さすがに途中で飽きてつきあいきれなくなりました(笑)。
Murrayのプレイはもうマンネリ化していますが、メンバーを変え、編成を変え、スタイルを変え、大量の新譜を出し続ける力と人脈はたいしたものです。今もJustin Timeなどで大量に出し続けていますが、誰も追い切れない(笑)。
LOVE AND SORROW は、同メンバーでのFOR AUNT LOUISE の残り曲集です。
LOUISEの方は半分以上がオリジナル曲で、いわゆるスタンダードはなし。スタンダードの方を選択的にお蔵入りにしているんですから、むしろ「日本企画盤」らしくないといえるでしょう。これはDIW時代後期の作品。もうMurrayのDIW盤もかなりセールスが落ちていたのでしょう。理由は出し過ぎ!お蔵入りも仕方ないでしょう。
Fred HopkinsやIdris Muhammadはあまりご存じないそうですが、両者の凄みにこれから出会えるんですから、それはむしろ幸運ですよ!
Fred Hopkinsは、AIRや1970年代ロフト・ジャズ諸作が代表作になりますが、入手難盤ばかりなので、
David Murray/LOVERSや/BALLADSをお勧めしておきます。どちらもDIWです(笑)。Hopkinsの豪腕ベースが堪能できます。特にアルコに注目。当時Hopkinsのアルコは業界No.1でした(スイング・ジャーナル界では無名ですが)。
Idris Muhammad(Leo Morris)は、あまり上手でない4ビートをやらされている1970年代末以降のものより、1970年前後のソウル・ジャズ時代の作品が良いですね。リーダー作よりもサイドマンのやつ。たくさんありますが、
Lou Donaldson/LIVE AT THE CADILLAC CLUB : THE SCORPION [Blue Note] (1990年代に発掘されたものです)
なんかどうでしょう。切れ味抜群です。親分もキレまくり。
(今回は長くてすいません)
投稿: orubhatra | 2014年7月14日 (月曜日) 22時57分