ジャズ喫茶で流したい・50 『Moods』
1971年にマティアス・ウィンケルマンとホルスト・ウェーバーという二人のジャズ奏者によって創立されたレーベル「Enja」。この「Enja」ほど、欧州ジャズの志向を感じさせてくれるレーベルは無い。
特にフリー寄りの演奏の録音に強い、という印象で、純ジャズ路線まっしぐら。ファンキーで大衆的なジャズとは正反対な、クールでアーティスティックなメインストリーム・ジャズが目白押し。ジャズを真っ正面からアートと捉え、アーティスティックなジャズのみを記録してきた「Enja」。
例えば、このMal Waldron『Moods』(写真左)など、その「Enja」レーベルの個性を実に良く感じさせてくれる好盤である。1977年5月の録音。ちなみにパーソネルは、Mal Waldron (p), Terumasa Hino (tp), Hermann Breuer (tb), Steve Lacy (ss), Cameron Brown (b), Makaya Ntshoko (ds)。トランペットに、日本人ジャズメン、日野皓正が参加している。
冒頭の「Minoat」の前奏のピアノの音からして、ポップな雰囲気、大衆音楽な雰囲気とは全く無縁。テンションの高い、硬質なタッチが、聴き手の襟元を正させる。インプロビゼーションの展開はモード。完璧にモーダルな展開は、もはやフリー一歩手前の、コンテンポラリーな硬派な純ジャズ。
いわゆる「新主流派」の音世界である。このアルバムの全ての演奏は、凛としていて硬派、甘さなど全く無縁、ビターで硬質なモード・ジャズが満載である。LP時代では、ジャズでは珍しく2枚組のボリュームでリリースされている。確かに、CDに収録された全曲、それぞれの内容は良い。捨て曲無しである。
リーダーのマル・ウォルドロンのピアノが突出して素晴らしいという訳では無い。グループ・サウンドとして、グループ・トータルとしての演奏内容が秀逸。どの楽器も水準以上の演奏レベルを維持していて、それぞれの楽器に着目して、何度も繰り返し、楽しむ事の出来る、コストパフォーマンスの良いアルバムでもある。
LP時代は、1枚目のA面、B面にセクステットの演奏を、2枚目のC面、D面にマル・ウォルドロンのソロピアノを収録していたそうなのだが、これは魅力的な編成ですね。セクステットを楽しみたい時は1枚目のLPを、マルのソロピアノを楽しみたい時は2枚目のLPを選択して聴き分けることが出来るんですね。
CDになっても、この2枚組編成でリリースして欲しかったなあ。実は、CDでは、LP時代のマルのソロピアノ「Duquility」がオミットされているんですよね。う〜ん、マルのソロピアノも内容が良いだけに、このオミットは残念ですね。
「Enja」レーベルのアルバムは、その硬派な内容故に、コアなジャズ者の方々には大受けなのですが、一般のジャズ者の方々には、ちょっと受けが悪いですかね。
でも、ジャズを真っ正面からアートと捉え、アーティスティックなジャズを記録し続けた「Enja」レーベル。もっともっと、多くのジャズ者の方々に聴いて貰いたいです。「Enja」レーベルのアルバムは、どのアルバムを選択しても、外れが無いことも特徴です。
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マルちゃんのコンボ作品は、トリオ/ソロものに比べると、あまり人気がないような気がします。70年代はまだしも、80年代のものは日本盤が出ていないせいもあって、ほとんど存在自体知られていないので残念。
私のお勧めは、
Mal Waldron Quintet / CROWD SCENE (Soul Note)
Sonny Fortune (as) Ricky Ford (ts) Mal Waldron (p) Reggie Workman (b) Eddie Moore (ds) 1989/06/10, NYC
Crowd Scene (26'50") Yin and Yan (25'26")
長尺2曲のみと聞くのにも体力の要る作品ですけど、マルちゃんのコンボ作の代表作、Fortune、Fordの代表作といってもいいような気がします。Black Saint/Soul Noteは一旦つぶれかけたので、今入手しにくいですが気合入れて探してみてください。
投稿: orubhatra | 2014年5月17日 (土曜日) 09時24分