« 英国ソフト&メロウ・フュージョン | トップページ | 春雨に良く似合うプログレです。 »

2014年4月 2日 (水曜日)

サンボーンの硬派なアルトです。

ミュージシャンとして、本人の意図するところとは違う聴き方をされるって、かなり複雑な気分なんだろうな、と思う。沢山の人々に聴いて貰うのは嬉しいことなんだが、意図するところとは全く違うところを評価されるって、やっぱり気分は複雑だろうな、と思う。

そんな、本人の意図するところとは違う聴き方をされる、最右翼のジャズメンのひとりが、David Sanborn(デビッド・サンボーン)だろう。彼ほど、本人の意図するところと違った聴き方をされるミュージシャンも珍しい。

彼のアルト・サックスは、フュージョン・ジャズからスムース・ジャズの流れに乗ったものではあるが、基本的には、硬派で意外と純ジャズな、正統派アルト・サックスである。白人でありながら、そこはかとない、白いファンクネスを湛えたストレートなブロウは、かなり個性的。

ストレートなブロウで、ブラスの響きを煌めかせながら、唄う様に奏でるサンボーンのアルトは「泣きのサンボーン」と形容され、その情緒的なフレーズは、サンボーンならではのもの。確かに、本当に良く鳴るアルトであるし、そのテクニックたるや、相当高度なものだ。

そのサンボーンのアルトの個性を十分に感じることが出来るアルバムが、このセカンド盤のDavid Sanborn『Sanborn』(写真左)。邦題は「メロウ・サンボーン」。1976年のリリースになる。

1976年と言えば、フュージョン・ジャズが全盛に向かって、どんどん勢力を広げていっている時代。このアルバムも、例に漏れず、しっかりとフュージョン・ジャズしている。が、サンボーンのアルトは、決して、ソフト&メロウな、甘くて耳当たりの良いものでは無い。かなり硬派でストレートなガッツのあるアルトなのだ。

そんなシッカリと硬派なアルトが、これまた、メリハリの効いた、柔軟度のあるリズム・セクションに乗って、唄う様に奏でられていくのだから、当時、流行だった「ソフト&メロウ」なフュージョン・ジャズとは一線を画した、実はかなり硬派なコンテンポラリーなジャズの一面を覗かせてくれる。
 

Sanborn

 
しかし、当時、サンボーンのアルバムはそういう聴き方をされていなかった節がある。サンボーンのアルトには「ながらのサンボーン」という形容もある。しっかりと対峙して聴き込むタイプの演奏では無く、何かをしながら、例えば、仕事をしながら、食事をしながら、いわゆる「〜しながら」聴く、BGM的な聴き方をされることが多かった。

加えて、恋人と語らい合う時、恋人とドライブをする時、恋人とムーディーな瞬間を演出したい時、などなど、恋人たちのBGMとして、いわゆる「〜しながら」聴く、BGM的な聴き方、アクセサリー的な使われ方をされることが多いのだ。

サンボーンのインタビューの中で、そんなBGM的な聴き方、アクセサリー的な使われ方をされていることを告げられて、その話に対して、ちょっと憤りを感じた旨の話が出ていたが、確かに、サンボーンは悩んでいるし、嘆いてもいる。

サンボーンは、内容の良いブロウをすればするほど、確かにアルバムは売れるのだが、売れた分、BGM的な聴き方、アクセサリー的な使われ方をされることも多くなる。

サンボーンのアルトは、硬派で高テクニックでありながら、そんなことを微塵も感じさせず、印象的でキャッチャーで流麗なフレーズを連発するので、その流麗さが故に、BGM的な聴き方、アクセサリー的な使われ方をされるんだと思っている。その流麗さが、意外と仇になっている。

でも、何もBGM的な聴き方、アクセサリー的な使われ方をするリスナーばかりでは無い。特に、このセカンド盤をしっかりと聴けば、サンボーンのアルトは、決して、ソフト&メロウな、甘くて耳当たりの良いものでは無い、かなり硬派でストレートなガッツのあるアルトであることに気付くはずだ。

とにかく、このセカンド盤の邦題「メロウ・サンボーン」はいただけないなあ。このアルバムでのサンボーンのアルトは「メロウ」なものでは決して無い。この邦題、サンボーン本人が知ったら、さぞかし落胆するだろうな。

邦題を付けるにしろ、アルバムの評論を書くにしろ、ミュージシャン本人の意図をしっかりと把握してからにすること。それでないと、ミュージシャン本人に失礼である。
 
 
 
★大震災から3年。決して忘れない。まだ3年。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、復興に協力し続ける。 

Never_giveup_4

★Twitterで、松和のマスターが呟く。名称「松和のマスター」でつぶやいております。ユーザー名は「v_matsuwa」。「@v_matsuwa」で検索して下さい。
 

« 英国ソフト&メロウ・フュージョン | トップページ | 春雨に良く似合うプログレです。 »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: サンボーンの硬派なアルトです。:

« 英国ソフト&メロウ・フュージョン | トップページ | 春雨に良く似合うプログレです。 »

リンク

  • まだまだロックキッズ(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    この「松和・別館」では、懐かしの「1970年代のロック」盤の感想や思い出を率直に語ります。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、70年代ロックの記事を修正加筆して集約していきます。
  • 松和の「青春のかけら達」(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    この「松和・別館」では、懐かしの「1970年代のJポップ」、いわゆるニューミュージック・フォーク盤の感想や思い出を率直に語ります。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、70年代Jポップの記事を修正加筆して集約していきます。           
  • AORの風に吹かれて(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    AORとは、Adult-Oriented Rockの略語。一言でいうと「大人向けのロック」。ロックがポップスやジャズ、ファンクなどさまざまな音楽と融合し、大人の鑑賞にも堪えうるクオリティの高いロックがAOR。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、AORの記事を修正加筆して集約していきます。  

カテゴリー