音楽喫茶『松和』の昼下がり・16
僕のジャズ・ボーカルの選び方って、どうも異端らしくて、ジャズ・ボーカルのマニアの方々が良いと言われる、名だたる女性ボーカリストの歌声が、どうにも、ちょっと苦手なのだ。
あまりに情感を入れすぎているというか、情感過多というか、仰々しいというか、確かに凄いテクニックには違いないのだが、もう少し、聴く方の身になって唄って欲しいと思ってしまうのだ。確かに、そういうところが異端なんだろうな。確かに、僕のジャズ・ボーカルの選び方って、ちょっと標準からは外れている。十分に自覚はしている。
だから、バーチャル音楽喫茶『松和』としても、ボーカル盤の選定はちょっと異質。ジャズ・ボーカルのベテラン・マニアの方々からは、マスターって、ボーカルが全く判ってないね、という話になる。でも、仕方が無いよな。聴きたくないものを、我がバーチャル音楽喫茶『松和』でかける訳にはいかない。
春になって、今年は寒暖の差が激しい、ちょっとドラスティックな気温の変化には閉口するが、それでも、冷え込むと言っても、もう真冬の寒さとは違う。やはり春である。ほんわか長閑な空気が部屋の中を流れる。こういう春の季節には、フュージョン系のボーカルが聴きたくなる。
ということで、今日の選盤は、土岐麻子『TOKI ASAKO "LIGHT!" 〜CM & COVER SONGS〜』(写真左)。土岐麻子の、rhythm zoneからリリースされたアルバム等から選曲されたベスト盤。CMソング、カバー曲で構成されていて、とにかく聴いていて楽しいことこの上無いアルバムである。
土岐麻子の声は実にユニーク。言葉で言い表すには、適当な言葉が見あたらないが、感覚的に言うと「くしゅっ、ふんわり、ふにゃふにゃ」。優しく癖が無く、安らぐような真っ直ぐな声。軽いスイング感とヴィブラートを乗せ過ぎない素直な歌唱。
加えて、土岐さんのボーカルには、ほのかなコケティッシュさを感じて、そこがまた「良い」。CDのスイッチを入れるやいなや、いきなり飛び込んでくる、ちょっと高めでふんわりした女性の声。 おおっ可愛いではないか、って感じ(笑)。ちなみに、土岐麻子のお父さんは、日本のベテラン・サックス奏者である土岐英史。
この土岐麻子のボーカル盤のどこがジャズなんじゃい、なんて憤るジャズ者ベテランの方がいらっしゃるかと思います。3曲目の「Waltz for Debby」を聞いて欲しい。このビル・エバンスの手なる名曲、土岐麻子のボーカルは、しっかりとコンテンポラリー・ジャズな雰囲気を醸し出している。
加えて、9曲目の「Human Nature」。マイケル・ジャクソンの名曲のカバーなのだが、1980年代、マイルス・ディヴィスがこの曲を採り上げて、スタンダード化した。この曲を、土岐麻子は、とりわけコンテンポラリーなフュージョン・ジャズ風に唄い上げていく。聴き応え満点だ。雰囲気はジャズ。とってもジャジーな雰囲気が堪らない。
他の曲だってそうだ。バックのリズム・セクションのリズム&ビートが、オフビートで、ファンクネスこそ感じないまでも、しっかりとジャジーなリズム&ビートが歌の底辺を漂っていて、このアルバムの内容を敢えてジャンル付けするならば「コンテンポラリーなフュージョン・ジャズ」。決して、ロックでも無ければ、ポップスでも無い。
どの曲もそのアレンジとその歌唱が「アウト」なのだ。つまり、他とは明らかに違う、他とは明らかに異なる表現というものを、明確に意識している。それが良い。それが土岐麻子の個性である。この個性がある限り、このアルバムの雰囲気は、僕にとっては、しっかりと「コンテンポラリーなフュージョン・ジャズ」なのだ。
カバー曲は、どの曲もとってもアレンジが良くて、土岐麻子のボーカルとバッチリとフィットしていて、聴いていてとても楽しい。ビートルズの「All You Need is Love」と「Lucy In The Sky With Diamonds」、忌野清志郎&坂本龍一の「い・け・な・いルージュマジック」、松田聖子の「小麦色のマーメイド」などなど、とにかく聴いていて楽しい。
こういうボーカル盤って、僕は大好き。土岐麻子の「くしゅっ、ふんわり、ふにゃふにゃ」なボーカルが、実にジャジーに響く。その歌唱の「アウト」な魅力。ジャズ曲のカバーは思いっきりジャズっぽく、ポップスはそこはかとなくリズム&ビートでジャジーに仕立てて、自作曲は曲自体のフレーズが実に魅力的。
僕にとっては、この土岐麻子のアルバムも「ジャズ」。コンテンポラリーなフュージョン・ジャズとして、我がバーチャル音楽喫茶『松和』では、この春の昼下がりによくかかる「季節もの」のヘビロテ盤です。
大震災から3年。決して忘れない。まだ3年。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、復興に協力し続ける。
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