音楽喫茶『松和』の昼下がり・14
バッハの楽曲をジャズにアレンジして、一世を風靡したピアニストがいる。ジャック・ルーシェ(Jacques Loussier)。フランスのピアニスト兼作曲家である。
まだ、岡山の中学に通っていた頃の思い出なので、1972年のことではないかと思う。お袋がステレオが欲しいと言ったら、親父が安いチープなモジュラー・ステレオというものを買ってきた。親父は倹約家で、音楽などには全く興味の無い人だったので、まあ仕方の無いことなんだが、とにかくステレオというものが家に来た。
そして、生まれて初めてFM放送なるものを聴く。音が良い、音がステレオ、聴くのはタダ、これは凄いなあと思った。そして、ある日、流れてきた演奏がちょっと変な感じだった。流れてくる演奏の基本はバッハ。旋律はバロック音楽なんだが、ドラムとベースが伴奏に入っている。ビートはオフビート。クラシックの番組だったが、あれれ、これってジャズですよね。
その時、初めて、ジャック・ルーシェの名前を知った。そして、そのアルバムの名前も知った。『Play Bach, Vol. 1』である。当時はまだまだクラシック絶対主義の時代。クラシックはアカデミックで良い音楽だが、ジャズは不良の音楽とされた。でも、これって、「音楽の父」にしてクラシック音楽の頂点に君臨するバッハの楽曲を、ジャズにアレンジしたものではないのか。これって、良い音楽なのか、悪い音楽なのか(笑)。
この『Play Bach』シリーズは、バッハの楽曲をジャズにアレンジして演奏したもの。テーマ部はバッハの楽曲に忠実に旋律を展開し、バッハの楽曲のまま、展開部に突入したり、バッハの楽曲には関係無く、ジャズよろしくアドリブ部に展開したり、アレンジはいろいろなんだが、バッハの楽曲の主旋律の部分は、基本的に忠実に展開している。今の耳で聴けば、アレンジの方式は単純である。
でも、1960年代から1970年代前半、これが良かった。このバッハの楽曲をシンプルなアレンジで、どんどんジャズ化していく。これはウケた。様々なバッハの楽曲をジャズ化し、トータルで600万枚を売り上げた(Wikipediaより)というから、凄いもんだ。
確かに聴き易い。元がバッハの楽曲なので、バロックの芳しき敬虔な響き、荘厳な響きが漂い、そこにオフビートのジャジーなリズム・セクションが絡む。ジャジーな俗っぽいリズム・セクションに乗って、バロック音楽の高尚な旋律を、これまたオフビートなタッチで、ピアノのソロが展開する。このバロックとジャズの対比が心地良く響く。
僕はこの『Play Bach』シリーズについては、午後の春の日差しを窓に見ながら、何にも考えずに、ぼーっとしながら聴くのが良いと思っている。ウトウトしながら、バッハの有名な曲の旋律に「ニンマリ」反応しながら、シンプルなオフビートに身を委ねる。難しいことを考える必要は全く無い。それが、この『Play Bach』シリーズの良さ。
『Play Bach』シリーズは、ライブ盤を含めて6枚ほどあるが、聴きどころとしては、頭の3枚『Play Bach, Vol. 1』(写真左)、『Play Bach, Vol. 2』(写真真ん中)、『Play Bach, Vol. 3』(写真右)が良いだろう。どれもがバッハの楽曲のジャズ化なので、演奏的にはほどんと変わらない。どれを聴いても、良い意味で「金太郎飴」である。
時には、難しいことを考えずに、単純に演奏に身を委ねることの出来る『Play Bach』シリーズの様なアルバムも、時には良いもんだ。バロック音楽、バッハの楽曲は春の季節に良く似合う、って感じるのは僕だけかなあ。
大震災から3年。決して忘れない。まだ3年。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、復興に協力し続ける。
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