モントルーのマイルス・1986年
1970年代後半の隠遁時代を経て、1981年、マイルスは完全復活した。そして、この1986年では、もう隠遁時代の影なぞ全く払拭され、1980年代半ば、エレクトリック・ジャズの最先端、いや、当時のジャズの最先端を走る第二期エレ・マイルス・バンドの姿をしっかりと確認できる。
前年の1985年とこの1986年のエレ・マイルス・バンドの相違点は、ギターがジョンスコからロベン・フォードに代わっていること。そして、デヴィッド・サンボーンとジョージ・デュークがゲストで参加していること。このゲスト参加のセンスは、さすがマイルスである。
この1986年のモントルーでのエレ・マイルス・バンドのパーソネルをおさらいしておくと、Miles Davis (tp, key), David Sanborn (as), Bob Berg (ts,ss), Adam Holzman, Robert Irving (syn), George Duke (syn), Robben Ford (el-g), Felton Crews (el-b), Vincent Wilburn (ds), Steve Thornton (perc)。エレ・マイルス・テンテットである。
シンセサイザーが3台採用しているところが、この時期のエレ・マイルスの特徴だろう。所謂、スタジオ録音盤の『Tutu』指向の音作りがなされている訳で、あの『Tutu』仕様のエレクトリックな軽快ではあるが厚みのあるユニゾン&ハーモニーをライブで再現するには、シンセサイザーを複数台採用することが必要だったのだろう。エレ・マイルスにしか出せない独特な音の重ね方は、非常に個性的だ。
1986年7月17日のライブ音源になる。ちょうど、この1986年の2月〜3月に、スタジオ録音盤『Tutu』を録音した半年後のエレ・マイルス・バンドの姿を捉えたもので、適度なファンクネスを宿した、エッジの明快なリズム&ビートに乗った、爽快なエレクトリック・バンド・サウンドが特徴。
インプロビゼーションの内容は、硬派なコンテンポラリー・ジャズであり、明るい雰囲気でありながら、テンションは適度に張っていて、それぞれのソロの内容は濃く、CD2枚のボリュームを一気に聴き切ってしまいます。フュージョン・ジャズの様な、エッジの明快なリズム&ビートに乗っている分、聴いていて疲れることは無いですね。
ゲストのデヴィッド・サンボーンのアルトが、かなりフリーキーにアブストラクトに吹き回していて面白いです。デヴィッド・サンボーンって、スムース・ジャズの代表格みたいに評価されていますが、彼のプレイの芯の部分は「硬派で純ジャズなアルト奏者」なんですね。そこをしっかりと見抜いてゲストとして招聘するマイルスの慧眼恐るべしです。
ジョージ・デュークのゲスト参加は、1970年代の第一期エレ・マイルス・バンドに常に漂っていた、少し暗い切迫感・重量感など微塵も感じさせない、1980年代のジャズ・シーンに合った、明るい雰囲気のエレ・マイルスのリズム&ビートの生成に貢献しています。このジョージ・デュークのゲスト参加にも正直ビックリしました。しかし、その成果をこうやって聴かされると、やっぱり思いますね、マイルスの慧眼恐るべし、と(笑)。
この1986年で、第二期エレ・マイルス・バンドは完成の高みに到達しています。マイルスのプレイも充実していて、随所で楽しそうにミュートにオープンに吹き切っています。楽しそうな表情のマイルスの顔が目に浮かぶようです。「Human Nature」と「Time After Time」は、ここでは確実にネオ・スタンダート化されています。美しいバラードプレイはマイルスの真骨頂。
1986年のモントルーのマイルス、充実しています。この5年後に鬼籍には入ってしまうなんてとても思えない、進化し続ける充実のエレ・マイルス。CD2枚のボリュームが物足りない位です。
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