名演を引き出した若き才能 『Quartet』
真に優れたミュージシャンとは「現金なもの」である。V.S.O.P.での演奏がマンネリに傾き、最後のスタジオ録音盤であった『Five Stars』などは、ピリッとしたところが無い、漫然とした内容に陥った。そのV.S.O.P.のリズム・セクションが、Herbie Hancock (p), Ron Carter (b), Tony Williams (ds) の3人。1979年7月の東京録音であった。
それから丁度2年後。1981年7月、同じ東京の録音。しかし、今回はちょっと違う。メインストリーム・ジャズの若き才能とのセッションの記録である。その若き才能とは、そんじょそこらの若き才能とは違う。10年から20年に一人の逸材。天才トランペッター、ウィントン・マルサリス(Wynton Marsalis)とのセッションである。
その若き才能との邂逅のセッションを記録したアルバムが、Herbie Hancock『Quartet』(写真左)。1981年、LPでのリリースは、2枚組のボリュームだった。ジャケットのデザインも良く、このアルバムは内容が期待出来た。
そして、出てくる音は「真剣勝負」そのもの。V.S.O.P.の最後のスタジオ録音盤でのマンネリな雰囲気と、ちょっとダルな演奏とは打って変わって、リズム・セクションを担う、Herbie Hancock (p), Ron Carter (b), Tony Williams (ds) の3人の演奏は、切れ味鋭く、テクニック抜群。テンション高く、そのインプロビゼーションは真剣そのもの。
これだけ、このベテランな3人を本気にさせるトランペッター、ウィントン・マルサリスとは如何なるものか、と思うんだが、冒頭の「Well You Needn't」を聴くだけで、その若き才能とは、そんじょそこらの若き才能とは違うことが判る。それまでの普通のトランペッターとは、全く次元が違う演奏であり、個性であり、音の響きである。
この10年から20年に一人の逸材との邂逅が、元マイルス・デイヴィスの黄金の第二期クインテットのリズム・セクションを担った、Herbie Hancock (p), Ron Carter (b), Tony Williams (ds) の3人の「本気」を思い切り引き出している。本当に、真に優れたミュージシャンとは「現金なもの」である(笑)。
天才トランペッター、若き日のウィントン・マルサリスの演奏も素晴らしいが、それ以上に素晴らしいのが、Herbie Hancock (p), Ron Carter (b), Tony Williams (ds) の3人の演奏。内容、テクニック、展開、音の響き、いずれも彼らのその時点でのベスト・プレイに近い高レベルの演奏を全編に渡って繰り広げている。3人とも当時としては、例外的に弾きまくっている。
そう弾きまくりである。こんなにアコピを弾きまくるハービーも珍しいし、ピッチもあってアコベらしい音を響かせながら、真剣にモーダルなベースを弾きまくるロンも珍しい。逆に、程良い小粋な抑制を効かせながら、ビシバシとドラミングをキメまくるトニーも珍しい。まるで、マイルス・デイヴィスをバックを務めている時のようだ。
この『Quartet』というアルバムは、ウィントンの希有な「若き才能」のお陰で、元マイルス・デイヴィスの黄金の第二期クインテットのリズム・セクションを担った、Herbie Hancock (p), Ron Carter (b), Tony Williams (ds) の3人の本気の演奏を愛でることの出来る優秀盤である。
そして、ハービーはリーダーとして、ウィントンのトランペットを上手くコントロールし、ウィントン自身の初リーダー作よりも、より魅力的にウィントンのトランペットを唄わせているところが見事である。ウィントンを唄い手になぞらえてみると、なるほど「伴奏のハービー」の面目躍如である。
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