トランペットの隠れ名盤・4
真冬には、暖かい部屋で、小粋なトランペットのアルバムをボーッと聴くのがお気に入りなのだが、長年、このアルバムにも結構お世話になっている。Tony Fruscella『Tony Fruscella』(写真左)。 邦題『トランペットの詩人』。なんか変な据わりの悪い邦題だが、センスが無いのだから仕方が無い。
1955年3月の録音。ちなみにパーソネルは、Tony Fruscella (tp), Chauncey Weisch (tb), Allen Eager (ts), Danny Bank (bs), Bill Triglia (p), Bill Keck (b), Bill Bradley Jr. (ds)。う〜ん、どのジャズメンもメジャーでは無いなあ。
さて、この『Tony Fruscella』、知る人ぞ知るトニー・フラッセラの数少ないリーダーアルバムなのだが、邦題はなぜか『トランペットの詩人』なる、判ったような判らんような邦題がついており、トランペッターのトニー・フラッセラ自体がマイナーな存在であることも併せて、なんとなく怪しげなアルバムではある。
トニー・フラッセラは、1927年2月にNYで生まれています。このアルバムを録音したのは、28歳の頃になりますね。しかし、フルッセラは麻薬禍によって、このアルバムの録音後は目立つこと無く、1969年8月に42歳で亡くなりました。このアルバムは、フルッセラの初リーダー作であり、唯一のリーダー作でもあります。
僕は、紙ジャケ仕様+リマスターで初リイシューされた時に、即座に買い込みました。邦題になんとなく怪しげさを感じていたのに、まあ、節操のないことなのだが、LP時代は幻の名盤で勇名を馳せており、とにかく、全く聴いたことがないのだから仕方がない。ジャズ評論家の中でも、このアルバムをやたら激賞する人達がいる位なので、あんまり過度な期待をせずにCDトレイにのせてみた。
1曲目の「I'll Be Seing You」で、鼻歌で軽く歌い流すようなフラッセラのペットに心を奪われる。トランペットのテクニック的には中庸なのだが、歌心があるというのか、中音域の音の出し方が特徴的で、とにかく、リラックスして聴くことの出来るトランペットであることは事実。
2曲目の「Muy」はちょっとアップテンポの曲になるが、フラッセラはアップテンポの曲でも破綻することなく、さらっと小粋に流してみせる。バックのリズムセクションも、堅実かつリラックスしたバッキングで、フラッセラのペットをもり立てている様も好ましい。
以降の曲もフラッセラは、儚なそうな音色ながら、しっかりとした音程で小唄を鼻歌交じりで歌うように、実にリラックスした、それでいて、そこはかとなく明るい、それでいて、なにか空虚な空しさのような気怠さも漂よわせながら、フラッセラは歌い続ける。
トニー・フラッセラのトランペットは、ジャズの歴史を変えたり、ジャズの歴史の1ページを飾るような名盤を輩出した訳ではないが、東京の下町の職人さんの様に、粋で鯔背な雰囲気を持った、十二分に個性的で中音域の特徴的な音色は、人知れず密かに愛すべきトランペッターであるといえる。
とはいえ、一部のジャズ評論家の方々が、トランペット・ジャズの傑作、などと大絶賛する向きもありますが、それはちょっと大袈裟な表現だと思います。ジャズ盤選定時に、雑誌やネットの評論や評価がかなりのウエイトを占める、ジャズを聴き始めた頃のジャズ者の方々に対しては、ちょっと無責任な評価だと思います。
このアルバムは、ジャズ者初心者の方々向けというよりは、ジャズ・トランペットの達人、マイルスやクリフォード、モーガン、ハバード、ウィントンなどをまずまず体験して、ジャズ・トランペットのスタイルや演奏レベルを理解した上で聴いて欲しい、ジャズ者中堅からベテランの方々向けのアルバムです。
でないと、このトニー・フラッセラのトランペットの良さが客観的に理解出来ないと思うからです。ジャズのアルバムには、時々、聴く順番みたいなものが出てきて、順番を間違うと思わぬ遠回りをしたりします。僕も以前、経験したことがあります。ご注意ご注意です(笑)。
大震災から2年10ヶ月。決して忘れない。まだ2年10ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。
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