ガレスピーを楽しみながら体感
ディジー・ガレスピー(Dizzy Gillespie)は、チャーリー・パーカーと共に、モダン・ジャズの原型となるスタイル「ビ・バップ」の立役者の一人。高らかなトーンで豪快かつテクニカルに演奏するスタイルは、トランペッターとして「最高位」に位置する存在である。
あのマイルス・デイヴィスからして、ディジー・ガレスピーを自らの上位に置く位だ。それほど、ガレスピーのトランペットのテクニックはレベルが高く、特に、ハイノートを駆使して、バリバリに吹きまくる様は、他のトランペッターには真似出来ないほどの素晴らしさである。
が、しかし、このディジー・ガレスピー、意外と人気が低い。人気が無い訳では無いのだが、同じ「ビ・バップ」の立役者の一人、チャーリー・パーカーと比べて、どうも人気が低い。つまりジャズ者からして「名前は知っているし、偉大な存在であることは十分認識してはいるが、あんまり彼のアルバムは聴いたことが無い」という感じなのだ。
何を隠そう、僕もそうだった。ディジー・ガレスピーを聴いて楽しめるリーダー作をパッと思いつかない。有名なアルバムは多々ある。でも、高らかなトーンで豪快かつテクニカルに演奏するガレスピーの音は思い浮かぶのだが、音楽として聴いて楽しむ感じでは無いのだ。
そのテクニックと吹きっぷりとテンションに感心する。そんな感じのアルバムが多く、聴いていると何だか疲れてしまうのだ。つまり、テクニック優先の「ビ・バップ」の宿命。ビ・バップの時代は、まだ1曲の演奏時間が3〜4分と短かったから良かった。ハードバップ期に移行すると、テクニック優先の「ビ・バップ」のテンションを、ハードバップ演奏の標準である7〜8分の間、続けるのだから、これは確かにちょっと疲れる。
そんな「ちょっと困ったちゃん」なガレスピーのアルバムの中で、まずまず、音楽としてその演奏が楽しめるアルバムが何枚かある。その一枚が、Dizzy Gillespie『For Musicians Only』(写真左)。1956年10月の録音。ちなみにパーソネルは、Dizzy Gillespie (tp), Sonny Stitt (as), Stan Getz (ts), John Lewis (p), Herb Ellis (g), Ray Brown (b), Stan Levey (ds)。
このアルバムでは、トランペットのガレスピーは活き活きと、アルト・サックスのソニー・スティットは伸びやかに、共に絶好調。その間に挟まれて、テナー・サックスのスタン・ゲッツがホットに必死で吹きまくる。1956年の録音なので、ハードバップの展開での演奏だが、ガレスピー、スティット、ゲッツの吹き方は、テンション高く、テクニック優先の「ビ・バップ」のまま。
それだと、他のアルバムの様に、聴いていて疲れてしまう。しかし、このアルバムはあまり疲れない。これは選曲の素晴らしさによる。このアルバムの収録曲は以下の通り。
1. Be-Bop
2. Dark Eyes / 黒い瞳
3. Wee
4. Lover Come Back To Me
どの曲もメロディーラインがキャッチャーで、ガレスピーのトランペット、スティットのアルト、ゲッツのテナーの、テンション高く、テクニック優先に吹きまくる「ビ・バップ」の音が耳に付かない。逆に、テクニックを駆使して、これらのスタンダード曲を吹きまくり、インプロビゼーションを展開しまくる内容が活き活きとしていて、実に聴き応えがあるのだ。
逆に、リズム・セクションは目立たない。ピアノはジョン・ルイス、ベースはレイ・ブラウンなのだが、フロントの3人を目立たさせる為に、しっかりとリズム&ビートを供給することに専念する。
タイトルは「ミュージシャンの為だけに」。確かに、ガレスピーのトランペット、スティットのアルト、ゲッツのテナーの、テンション高く、テクニック優先に吹きまくる「ビ・バップ」の音は、ミュージシャンでこそ楽しめるものかもしれない。
しかし、このアルバムの演奏は、メロディーラインがキャッチャーで、インプロビゼーションを展開しまくる内容が活き活きとしていて、ジャズ・ファンの我々も十分に楽しむことが出来る。ビ・バップ基調の演奏なので、ちょっとハードな内容ではあるのですが、ガレスピーを楽しみながら体感するのに、なかなかの内容の一枚だと思います。
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