評価するに厄介なトランペッター 『Outpost』
しかし、この人ほど、テクニックが素晴らしく、器用なトランペッターはいないと思う。そのトランペッターの名は「フレディー・ハバード(Freddie Hubbard)。
ハバードは、共演者との相性、共演者との組合せ、セッションの内容、プロデューサーの意向、録音地の環境等に対して、様々なスタイル、様々な音色で対応する。七変化である。トランペットの吹き方・音色に関する「あらゆる要請」に十二分に応える。そんな凄いテクニックと才能を持ったトランペッターである。
ここに、Freddie Hubbard『Outpost』(写真左)というアルバムがある。1981年3月の録音。ドイツはミュンヘンのEnjaレーベルでの吹き込みになる。プロデューサーは、Enjaレーベルの総帥ホルスト・ウェーバー。ちなみにパーソネルは、Freddie Hubbard (tp), Kenny Barron (p), Buster Williams (b), Al Foster (ds)。
パーソネルだけみると、アメリカンな純ジャズをガッツリやるメンバーの様な雰囲気なんだが、ドイツはミュンヘンのEnjaレーベルでの吹き込みということなのかどうかは知らないが、この『Outpost』全体を覆う演奏の雰囲気は明らかに「ヨーロピアン」。欧州ジャズの雰囲気満載の優秀盤である。
この盤でのハバードは、完璧なまでに「欧州ジャズ」的なトランペットを披露する。汗が飛び散る様な熱気溢れるハードバップなブロウは封印し、クールで端正で知的な「ヨーロピアン」なトランペットの音色が、このアルバムの最大の特徴。つまり「欧州ジャズ」的なハバードが聴ける、ちょっと面白い内容の盤である。
しかし、本当に器用なものだ。1981年と言えば、ハードバップの再来として、テクニックと熱気溢れるブロウを引っさげ、米国でV.S.O.P. クインテットの一員として大成功を収めた直後。この盤でも、テクニックと熱気溢れるブロウを引っさげ「ガンガン」吹くかと思いきや、クールで端正で知的な「ヨーロピアン」なトランペットで冷静に吹きまくる。それまでの米国でのパフォーマンスからすると全くの別人である。
1981年と言えば、ジャズとしては「フュージョン・ジャズ」ブームの末期。メインストリーム・ジャズ復古のムーブメントまでには、もう少し時間を待たねばならない時代。フュージョン・ジャズでも無い。と言って、アメリカンな純ジャズをやっても、まだ「ウケる」時代では無い。そこにEnjaレーベルでの録音のオファー。思わず、従来のスタイルを変えて、完璧なまでに「欧州ジャズ」的なトランペットを披露する。
この器用さがハバードの才能でもあり、逆に物足りない面でもある。七変化のハバードを聴いていると、ハバードの個性って、どのスタイルの吹き方なんだろうと、思わず考え込んでしまう。どのスタイルも、最高のテクニックで最高の歌心で吹き切ってしまうのだ。しかも、どのスタイルも及第点どころか、かなりの高得点を獲得してしまうまでの素晴らしさ。
この盤『Outpost』では、ヨーロピアンなハバードを聴くことが出来る。なかなか珍しい欧州的なブロウ。それはそれで、十分に鑑賞するに値する素晴らしい内容ではある。クールで端正で知的な「ヨーロピアン」なトランペットが、秋の夜長に心地良い。
フレディ・ハバードとは、評価するに実に厄介な(笑)トランペッターである。
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