むっちゃ硬派なチックである。
今週は「秋のチック祭り」。我が愛しのチック・コリアのアルバムを集中して聴いている。とにかく、僕はジャズを聴き始めた37年前からチックがお気に入り。初めて聴いたアルバムが、Chick Corea & Gary Burtonの『Crystal Silence』。
チックはジャズ評論家の皆さんから、結構厳しい評価をいただいてきた。チックの志向はコロコロ変わる。純ジャズをやっていたと思ったら、エレ・ジャズをやる。エレ・ジャズをやっていたと思ったらデュオをやる。チックの志向はカメレオンの様にコロコロ変わる。一貫性が無い。落ち着きが無い。とまあ、振り返って見れば、結構、散々である(笑)。
でも、僕達はそうは思わなかったなあ。純ジャズもエレ・ジャズもデュオも、いずれの志向での成果は全て標準以上。どの志向も一流として通用する内容を備えている。何が悪いのか、と思った。一貫性が無いなんて言うが、振り返ってみれば、一貫して「純ジャズ、エレ・ジャズ、デュオ」の3本柱がメイン。この3本柱は、チックのキャリアの中で、一切ぶれていない。
とまあ、チックについては、日本のジャズ評論で的を射た評価がなかなか見当たらないが、とにかく自分で聴いて感じることが、音楽に対しては一番大事なことなので、自分で聴いて感じたものを信じて、素晴らしいジャズ体験を積み上げていけば良いのでは、と思う今日この頃(笑)。
で、今日聴いたチックは、Chick Corea『Trio Music』(写真左)。1981年11月の録音。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (p), Miroslav Vitous (b), Roy Haynes (ds)。
1970年代後半、フュージョン基調のエレクトリック・ジャズと、ゲイリー・バートンとのデュオが中心に素晴らしい成果を挙げていたチックが、1980年に入るやいなや、いきなりアコースティックなメンストリーム・ジャズに立ち戻り、実に硬派な純ジャズ盤をリリースし始めた。
その素晴らしい成果の一つがこの『Trio Music』。内容的には、思いっきり硬派な純ジャズ。コードからモード、そしてフリーとそれまでのジャズの演奏スタイル、要素を全て網羅した、1981年当時として、最先端を行くピアノ・トリオ。エンタテインメントな要素は殆ど無い。クラシックに匹敵するアーティスティックな要素がギッシリ。
チックのピアノは切れ味鋭く、コードからモード、そしてフリーとそれまでのジャズの演奏スタイル、要素を全て網羅。特に、モードからフリーなスタイルは、1970年始めの、伝説の「サークル」で培ったもの。チックが若き頃から探求しているセロニアス・モンクの素晴らしい研究成果も披露。現代音楽的なフレーズやアプローチも織り込んで、チックのピアノ・テクニックの全てを聴かせてくれる。いやはや、ほんま、このピアノって凄いよ。
ベースのミロスラフ・ビトウスも、チックに負けず劣らず凄い。チックの切れ味鋭く、コードからモード、そしてフリーとそれまでのジャズの演奏スタイル、要素を全て網羅したピアノに、寄り添うように追従。僕は、これだけアーティスティックなジャズ・ベースをあまり聴いたことが無い。硬派で豪腕でアーティスティックなアコベ。柔軟でメタリックなベース音。ほんま、このベースって凄いよ。
ドラムのロイ・ヘインズが、これまた凄い。チックの変幻自在、硬軟自在なピアノに、柔軟かつ迅速に対応。多彩なテクニックで、様々なリズム&ビートを繰り出し、色彩委豊かなドラミングには舌を巻く。ファンクネスを極力封印して、クールにダイナミックに、切れ味の良い、思いっきりジャジーなリズム&ビートをチックとビトウスに供給する。ほんま、このドラムって凄いよ。
今、このピアノ・トリオの音を振り返って見ると、当時、大いにウケていた、キースのスタンダーズが霞むほどの素晴らしさ。キースのスタンダーズって、硬派な純ジャズではありながら、コマーシャルでエンタテイメントなピアノ・トリオだったことに気が付く。逆に、チックの純ジャズ・トリオは、アーティスティックでストイックで、実に尖った内容のピアノ・トリオだったことに気が付く。
キースとチック。どちらも、マイルス・スクールの門下生であるが、目標とするものが全く正反対。キースとチック、どちらのピアノ・トリオも素晴らしい。でも、どちらか一方を取れ、と言われたら、迷わず僕は「チック」を選ぶ。それほど、チックのピアノ・トリオは僕の感性にピッタリとフィットする。
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