« 音楽喫茶『松和』の昼下がり・3 | トップページ | 音楽喫茶『松和』の昼下がり・4 »

2013年9月 9日 (月曜日)

フュージョン時代の最後の煌めき 『Fuse One』

フュージョンという言葉が、今の様に単なる音楽のスタイルを規定する「名詞的な扱い」ではなく、 フュージョンという言葉そのものがジャズであり、フュージョンという言葉そのものが「ジャズにおける先進的なムーブメント」だった時代がある。

1970年代がそうなのだが、特に、1970年代半ばの頃、このフュージョン・ジャズの成熟期であり音楽的にもピークだった。ビジネス的には、1970年代後半までズルズルと引きずる訳だが、 ビジネス的に成熟すればするほど、音楽的には徐々に退廃していった。

フュージョン・ジャズがビジネス的に下り坂になり、音楽的な退廃が決定的になりつつあった1980年に、フュージョン・ジャズの仕掛け人のひとり、 クリード・テイラーが突如として、オールスター・ジャム・セッションを招集した。そのスーパー・セッション・バンドが、今回、ご紹介する「フューズ・ワン」である。

振り返れば、「フューズ・ワン」 というスーパー・セッション・バンドは、フュージョン・ジャズの最後の煌めきの様なバンドだと僕は感じている。 実際、このアルバムが制作された1980年以降、フュージョン・ジャズは、更なる衰退の一路を辿っていくこととなる。ここでは、そのフュージョン・ジャズ最後の煌めき的な、スーパー・バンドの名盤をご紹介しましょう。

『Fuse One』(写真左)。CTIレーベルの主催者、クリード・テイラーのプロデュースによるオールスター・セッション第1弾。1980年のリリース。

1980年といえば、1970年代前半から半ばにかけて盛り上がり、一世を風靡した「フュージョン・ジャズ」が、1970年代後半、どんどんコマーシャルになり「形骸化」、オーディエンスから徐々に飽きられつつあった、いわゆる「斜陽の時代」である。
 

Fuse_one_fuse

 
その「斜陽の時代」に、フュージョン・ジャズの仕掛け人の第一人者であるクリード・テイラーが、この「フューズ・ワン」というオールスター・セッション・グループを編成し、この「フューズ」というアルバムを世に出したというのは、実に象徴的だ。

とにかくメンバーが凄い。ベースはスタンリー・クラークとウイル・リー、ギターはラリー・コリエルと ジョン・マクラフリン、サックスはジョー・ファレル、ドラムスはトニー・ウイリアムスとレニー・ホワイト、などなど、フュージョン界でのビッグ・ネームばかり。

しかも、この手のスーパー・セッション的アルバムは、往々にして顔ぶれが豪華だけで、内容が散漫な看板倒れのアルバムが多いのだが、このアルバムは珍しく、それぞれが自己主張しつつも、しっかりとグループ・サウンズを意識した、ひとつのアルバムとして、しっかりとした内容になっている。

まずは、フュージョンならではのテクニック抜群でイケイケの名曲達。1曲目の「グランプリ」や5曲目の「ダブル・スチール」などは、印象的な旋律とそれぞれのメンバーの職人芸的なソロが相まって、スピード感と安定感が抜群の名演だ。ちなみに、5曲目の「ダブル・スチール」は、1980年当時、TDKのTVコマーシャルで使用されヒットしましたね〜。

7曲目の「タクシー・ブルース」は、ファンキーなシャッフル・ナンバーで、とにかく、ノリノリのイケイケ的演奏で楽しい。うって変わって、なかなかに渋い佳曲が、2曲目の「ウォーター・サイド」。哀愁溢れるブラジリアン・テイストが心地良い。また、3曲目の「サンシャイン・レディ」は、あのファンキーなエレクトリッ ク・ベースで有名なスタンリー・クラークの作品で、意外にも、とても優しく清々しい。

この『Fuse』というアルバムは、フュージョン時代の最後の煌めきの様な位置づけを担ったアルバムだったと僕は思う。実際、このアルバムが制作された1980年以降、フュージョンは、衰退の一路を辿っていくこととなる。

しかし、このアルバムは、フュージョンのオールスター・セッションとして未だに輝いている。正直言うと、このアルバム、今聴いても結構いけてて、なんだかホッとしました。
 
 
 
★大震災から2年5ヶ月。決して忘れない。まだ2年。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。 

Never_giveup_4

★Twitterで、松和のマスターが呟く。名称「松和のマスター」でつぶやいております。ユーザー名は「v_matsuwa」。「@v_matsuwa」で検索して下さい。
 

« 音楽喫茶『松和』の昼下がり・3 | トップページ | 音楽喫茶『松和』の昼下がり・4 »

コメント

マスターはじめまして
私の好きなアルバムをよく紹介頂いているので、ちょくちょく拝見させて頂いておりましたが、本日初めてコメント致します。
ジャズも大好きですが、私の場合はかなりラテン寄りの傾向が強いと思います。
私のハンドルネーム「ミロンガ」もアルゼンチンタンゴの曲名です。
ですので、このアルバムの中でも一番好きなのは、「わが祖国」の「モルダウ」をモチーフにした「ウォーター・サイド」です。
確かに、この「フューズ・ワン」やフレディ・ハーバードの「ミストラル」あたりは、フュージョン最後の煌めきを残したアルバムだと思います。
当時は丁度、アナログLPからCDのデジタルの移行直前の時期で、その後CD化されてりしましたが、LPを買ったばかりなので、CDを即買おうという人はおらず、わずかしか売れないうちに廃盤になってしまったものが多いようです。
前記の「ミストラル」もLPは数万枚売れたようですが、CDは数百枚しか売れておらず、昨年の復刻盤が発売されるまで、オークション等でかなりの高値でやり取りされていました。
昨年、復刻盤がでてやっと手に入れて、このアルバム内で一番好きな曲の「ブルー・ナイツ」を20年ぶりに聴いた時には、思わず鳥肌が立ちました。
ちなみに、そんなに良い出来とは思えないこのフューズ・ワンの3枚目のアルバム「アイス」の新品CDは、ネット通販業者のAmazonで2631万円の超プレミア価格がついています。廃盤にプレミアが付くのはよくあることですが、これはやはり驚異の価格です。
最後にですが、
私が好きなアーチストは、
アート・ペッパー、キャノンボール・アダレイ、スタン・ゲッツ、ガト・バルビエリ、本田雅人
フレディ・ハーバード、クリフォード・ブラウン、ウィントン・マリサリス
トニー・ウィリアムス、ピーター・アースキン、スティーブガット
ジャコ・パストリアス、スタンリー・クラーク、レイ・ブラウン、ポール・チェンバース、エディ・ゴメス
チック・コリア、オスカー・ピーターソン、トミー・フラナガン、ハンク・ジョーンズ
パコ・デルシア、ビセンテ・アミーゴ、ラリー・コリエル、アール・クルー
アル・ディメオラ、ラリー・カールトン、スティーブ・ルカサー、リッチー・ブラックモア
ビル・ウィザーズ、ヘレン・メリル、セルジオ・メンデス
あたりです(思いつくまま書いたので、まだまだいると思います。)
また、お邪魔することがあると思いますが、よろしくお願します。

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: フュージョン時代の最後の煌めき 『Fuse One』:

« 音楽喫茶『松和』の昼下がり・3 | トップページ | 音楽喫茶『松和』の昼下がり・4 »

リンク

  • まだまだロックキッズ(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    この「松和・別館」では、懐かしの「1970年代のロック」盤の感想や思い出を率直に語ります。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、70年代ロックの記事を修正加筆して集約していきます。
  • 松和の「青春のかけら達」(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    この「松和・別館」では、懐かしの「1970年代のJポップ」、いわゆるニューミュージック・フォーク盤の感想や思い出を率直に語ります。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、70年代Jポップの記事を修正加筆して集約していきます。           
  • AORの風に吹かれて(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    AORとは、Adult-Oriented Rockの略語。一言でいうと「大人向けのロック」。ロックがポップスやジャズ、ファンクなどさまざまな音楽と融合し、大人の鑑賞にも堪えうるクオリティの高いロックがAOR。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、AORの記事を修正加筆して集約していきます。  

カテゴリー