硬派で質実剛健なボサノバ・ジャズ
どうしても夏の夜はボサノバ・ジャズを選んでしまう。そんな中でも、今日は硬派な内容のHank Mobley『Dippin'』(写真左)。「モブレーのボサノバ」として、当時大ヒットした「リカード・ボサノバ」がある。その「リカード・ボサノバ」を収録した人気盤がこの『ディッピン』。
1965年6月の録音。ちなみにパーソナルは、Hank Mobley (ts), Lee Morgan (tp), Harold Mabern Jr.(p), Larry Ridley (b), Billy Higgins (ds)。1965年と言えば、ボサノバ・ジャズのブームも定着し、ビートルズを始めとするロック・ミュージックが台頭。ジャズが大衆音楽の範疇から少しずつ外れ始めた、そんな微妙な時代である。
なぜか世間では「B級テナー」と呼ばれるハンク・モブレー。「B級テナー」という評価はジョン・コルトレーンやソニー・ロリンズなどの超一流の偉大なるテナーマンほどではない、ということらしいが、なんだか蔑んでいるようで、僕は好きではない。
評論によっては、ご丁寧に「B級テナー」と表現の後に「蔑称ではない」なんていう言い訳をつけている(苦笑)。だったら「B級テナー」という表現は使わなければ良いのに・・・。
話を元に戻そう。ハンク・モブレーは、ハードバップ・ジャズの中では中堅をなすテナーマンで、その歌心溢れるテナーで人気のジャズマンである。初期の頃は、バリバリのハード・バップを演っていたが、 1960年代に入ると、ジャズ・ロックやモード・ジャズの時流に乗って、ジャズ・ロックあり、ボサノバあり、モード・ジャズあり、と変幻自在の演奏を繰り広げるようになる。
しかし、彼のテナーの 最大の特徴である「歌心」は、どの演奏スタイルにもしっかりと存在していて、そのテナーの音を聴くと、直ぐにモブレーと判るのだ。
そんな中、「モブレーのボサノバ」として、当時、大ヒットした名曲として「Recado Bossa Nova(リカード・ボサノバ)」がある。この曲、Luiz AntonioとDjalma Ferreiraの作なのだが、モブレーのオリジナルかの様に、モブレーはこの曲を自分のものにしている。
しかも、この「リカード・ボサノバ」、確かにボサノバ・ジャズなのだが、良くある、単に柔らかな心地の良いソフトなボサノバ演奏では無く、なんというか、実に「硬派」なボサノバなのだ。
前奏の始まりから香しきハード・バップの雰囲気を漂わせ、続くモブレーのテナー、リー・モーガンのペットでのユニゾンによるテーマ部分も、実にハード・バップの香りが充満していて、とてもとても「ジャズしている」。
その後続く、モブレーのテナー・ソロも、モーガンによるペットのソロも、全てが「ハード・バップ」していて心地良い。単に、当時、流行だったボサノバをなぞって、ポップに演奏するのではなく、ベテラン・ジャズマン達が、流行のボサノバを十分に自分のものとして消化し、その優れたテクニックとアレンジで、ハード・バップに転化しつつ、実に「硬派な」ボサノバに仕立て上げている。
さすがブルーノート、こんな「硬派な」ボサノバ・ジャズもあるのですね。他の曲についても、ジャズ・ロックあり、モード・ジャズありで、当時の複雑多岐に渡るジャズの環境が垣間見えて、結構、楽しめるアルバムです。
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