「欧州」的雰囲気なギターの代表
6弦と12弦ギターを中心に、ピアノも含めてオーバーダビングした作品だが、透徹な音世界なのに、音自体に冷ややかさがなく、それぞれの楽器が深い色彩を帯びつつ、ひとつの景色を描く例のない世界。ジャズ初心者駆け出しの頃、この人のアルバムを聴いた時、凄くビックリした。
Ralph Towner『Diary』(写真左)。ECMレーベルからのリリース。ジャケットが既にECMらしい。1973年4月4−5日の録音。Ralph Towner(ラルフ・タウナー)が、6弦と12弦ギター、そしてピアノを担当。
パット・メセニーのギターが「米国」的雰囲気の代表だとすれば、このラルフ・タウナーは「欧州」的雰囲気の代表だろう。ラルフ・タウナーは、このアルバムでは、ピアノも弾いており、このピアノの音色と、タウナーのギターの音が相まって、実に、ヨーロピアンな音世界を現出している。
ECMレーベルのアルバムはジャケット・デザインが秀逸なものが多く、よく「ジャケットは内容を表す」と言われるが、このアルバムにもそれが言える。青空は見えるが、ややくぐもった空。どこまでも続く水平線。遠く静かに聞こえる波の音。ジャケット写真から受ける印象そのままの音世界が、このアルバムに展開されているのだ。
それぞれの曲を追っていくと、『これがジャズ?』といぶかしがる声も聞こえそうだが、そんな既成のジャンルの常識を越えてこのアルバムは美しい。それぞれの曲における演奏のイディオムは紛れもなくジャズであり、この『美』の世界を現出できたジャズというジャンルに限りない奥行きと懐の深さを感じる。これもジャズ、これも「あり」である。
1曲目の「Dark Spirit」は、その展開と疾走感が素晴らしく、2曲目の「Entry in a Diary」は、その内省的で透明感あふれる内容は、しばし、時を忘れて耳を傾けてしまう、そんな素晴らしさ。3曲目の「Images Unseen」などは、ちょっと前衛音楽の演奏が入っており、環境音楽のようで、美術館のBGMのようだ。
しかし、前の3曲が一瞬にして霞むかの様に、4曲目の『Icarus(イカロス)』の演奏は凄い。言葉を失うような美しさであり、そのダイナミズム、その疾走感、その激しさと優しさ。ギターのソロとしては最高位に位置するこの演奏。この『美しさ』に打たれない人は不幸だと思うほど、この曲は、この演奏は美しい。
このアルバム全体を支配するのは「ヨーロピアンな雰囲気」である。所々に見え隠れするクラシック音楽な雰囲気やスパニッシュな雰囲気。そして、そこはかとなく、スカンジナビアンな雰囲気が現れては消えていく。そんな目眩く「ヨーロッパ」的雰囲気を、タウナーのギターを通じて、じっくりと味わって下さい。
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