凛とした静謐感漂うソロ・ピアノ
ECMレーベルといえば、ベルリン・フィルで主席コントラバス奏者を勤めたマンフレート・アイヒャーが、1969年、ミュンヘンで創立したレーベル。アイヒャー独特の美意識のもと、新しいジャズの在り方のみならず、新しい感覚の音楽の在り方を追求した、個性派レーベルである。
この個性派ジャズ・レーベルには、独特の雰囲気を持ったソロ・ピアノのアルバムが沢山ある。おおよそ、ハードバップの様な旧来のジャズとは違うマナーの、どちらかといえば現代音楽の雰囲気が強い、凛とした静謐感漂うソロ・ピアノがメインである。欧州のジャズ・レーベルならではのアプローチ。これがまた良い。
そんなECMレーベルの「凛とした静謐感漂うソロ・ピアノ」の中で、良くCDプレイヤーのトレイに載る盤が、Richie Beirach『Hubris(ヒューブリス)』(写真左)。1977年6月の録音。Richie Beirach(リッチー・バイラーク)の初のソロ・ピアノ盤である。全曲オリジナルで固めている。
私事になるが、このソロ・ピアノ盤、今から30年以上前のLPの時代、ジャズ者初心者駆け出しの頃から、欲しい欲しいと思っていながら入手できず、CDでリイシューされる度に、そのうちと思っていたら廃盤となって、口惜しい想いをしたアルバムで、20世紀の終わり、2000年のリイシュー時にやっと入手した、曰く付きの盤である。やはり、欲しいと思う盤は見かけた時に迷わず買うべきですね(笑)。
さて、このRichie Beirach『Hubris』であるが、とにかく美しい録音、とにかく美しいソロ・ピアノである。初夏の眩しい日差しの中、誰もいない静かな山間の公園か、その木々の合間から垣間見る穏やかな海を連想する音世界。確かなテクニックに裏打ちされた、力強くも優しいバイラークのピアノがここにある。
そして、ECMレーベルのアルバムは殆どがそうなのだが、アルバム・ジャケットのデザインや写真が、まさにそのアルバムの内容や雰囲気とピッタリなのだ。言い換えると、ECMレーベルのアルバムは、ジャケットの印象で買って良い、ということが言える。
この『Hubris』も例外では無い。ジャケットのイメージにピッタリのピアノ・ソロが繰り広げられている。しかも、この盤のジャケットは、昔のLPサイズだと更に格別な、秀逸なデザインである。
この盤のピアノ・ソロに、メインストリーム・ジャズ的な4ビート展開や、ファンキーでアーシーな左手のビートを期待してはいけない。いわゆる「純ジャズ」的な雰囲気のソロ・ピアノでは無い。バイラークの左手は辛うじて、リズム&ビートをキープしてはいるものの、演奏全体の雰囲気は現代音楽の域に近い。
しかしながら、現代音楽の幾つかがそうであるような難解さは無い。現代音楽風でありながら、実にシンプルで判り易い、印象的な響きのフレーズが特徴のピアノ・ソロ。
しかも、タッチにはジャズ的な力強さがあるので、クラシック・ピアノの様な繊細さ、儚さが希薄。流行の癒し系ではなく、健全で明快なタッチ、そこはかとなく明るく印象的な響きのフレーズが特徴の、いわゆる現代ジャズのひとつのバリエーションと言える演奏なのだ。
アルバム収録のどの曲も素晴らしいソロばかりであるが、一番良い演奏を1つ選べと言われたら、冒頭の「Sunday Song」を迷わず、僕は選ぶ。とにかく美しく、透明感溢れ、そこはかとなく明るく、初夏の眩しい青空のような、初夏の日を一杯に浴びた「穏やかな海」を連想させるような冒頭の1曲だけでも、このアルバムは買いだ。
★大震災から2年。でも、決して忘れない。まだ2年。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。
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