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2013年3月20日 (水曜日)

あの喧嘩セッションは無かった

アコ・マイルスの聴き直しは、昨日の『Nefertiti』で一旦完了したんだが、今日は早速、その落ち穂拾いを・・・。

2013年2月14日のブログ(左をクリック)でご紹介した、Miles Davis『Bags' Groove』。このアルバム、タイトル曲以外は全く別セッションで固められている。つまり、マイルスとヴァイブのミルト・ジャクソンの共演セッションは、このタイトル曲の異なるバージョンの2曲以外、聴くことが出来ない。

では、他のセッション音源は何処にいったのか。つまり、1954年12月24日の録音の残りの演奏は『Miles Davis And The Modern Jazz Giants』(写真左)としてリリースされている。つまり、かの有名な「マイルスとモンクのクリスマス・セッション」と呼ばれる1954年12月24日の録音は、2枚のアルバムに跨がって収録されていることになります。

さらに話をめんどくさくさせているのは、この『Miles Davis And The Modern Jazz Giants』の収録曲。このアルバムに収録された演奏は以下の通り。

1. The Man I Love (Take 2)
2. Swing Spring
3. 'Round Midnight
4. Bemsha Swing
5. The Man I Love

この5曲の中で、3曲目の「'Round Midnight」だけが演奏内容が異質。聴けば直ぐ判るのだが、簡単に言うと、ヴァイブのミルト・ジャクソンのヴァイブの音が聴こえない。それもそのはずで、この1曲だけ、1956年10月26日の録音。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), John Coltrane (ts), Red Garland (p), Paul Chambers (b), Philly Joe Jones (ds)。

ん〜っ、このパーソネル、この録音日。これって、かの有名なプレスティッジ・レーベルでの「マイルスのマラソンセッション」の音源では無いのか? そう、この3曲目の「'Round Midnight」だけ、「マイルスのマラソンセッション」からの収録なんですね。なんで、こんなめんどくさい、紛らわしいことをするんやろ。これやから、プレスティッジ・レーベルのアルバムは困りもの。
 

Miles_modern_jazz_giants

 
で、話を戻すと、この3曲目の「'Round Midnight」以外の残り4曲は1954年12月24日の録音、かの有名な「マイルスとモンクのクリスマス・セッション」と呼ばれる音源です。なんで、先の「Bags' Groove」と合わせて、ミルト・ジャクソンを含む「マイルスとモンクのクリスマス・セッション」を一枚のアルバムとしてまとめてリリースしなかったのかが不思議です。

「マイルスとモンクのクリスマス・セッション」のエピソードは、あちらこちらのジャズ本に語られ尽くされているので、ここでは深く追求しませんが、簡単に言うと、マイルスが先輩のモンクに「俺のバックでピアノを弾くな」と言い放ち、モンクはそれが面白くなくて途中でバッキングを取り止め、スタジオ内では一触即発の雰囲気に包まれたという伝説です。「マイルスとモンクの喧嘩セッション」としても有名だったんですが、当の本人や当時の関係者の証言から、この話は全くの作り話だったようです。これもまた紛らわしい。

さて、この「マイルスとモンクのクリスマス・セッション」の演奏、確かに、マイルスとミルト・ジャクソンのヴァイブの相性は抜群なのですが、モンクのピアノのバッキングとは、どうも雰囲気が合わない。全く合わないという訳じゃないんですが、なんとなく合わないという感じですかね。モンクかマイルス、どちらかが譲って、自分の演奏スタイルを相手の雰囲気に合わせて、マイナー・チェンジすれば、きっと素晴らしい演奏として残ったとは思うのですが、そういうところは、マイルスもモンクも譲らない様ですね(笑)。

確かに、「マイルスとモンクの喧嘩セッション」のネタとして有名になった演奏である冒頭の「The Man I Love (Take 2)」でのモンクは弾きにくそうにしていて、遂には演奏を中断してしまいます。どうも、マイルスとミルトの相性があまりに合いすぎていて、モンクのちょっと異質なピアノはどうも具合が悪かったのでしょう。モンク自ら、具合の悪さが気になって演奏を止めた様に感じます。

でも、僕は、このマイルスとミルトの美しきリリカルなフレーズに対する、モンクの異質なピアノのバッキング。この水と油の様な個性のぶつかり合いが意外と好きだったりします。それは、4曲目のモンク作曲の「Bemsha Swing」を聴く度に思います。モンクの手になる曲が故に、モンクは活き活きとバッキングします。そのモンクの活き活きとした異質なピアノをバックに、リリカルでクールなマイルスとミルトの流れるようなフレーズが展開される。この違和感漂う不思議な演奏が実に魅力的です。

まあ、このアルバム『Miles Davis And The Modern Jazz Giants』は、是非とも聴いておかなければならないアルバムとは言いませんが、ジャズにおいては「水と油の様な個性でも魅力的でアートな演奏になる」という一つの例として体験するに値する盤ではあるでしょう。

しかし、プレスティッジのアルバムの曲の構成には戸惑うことが多い。このアルバムでも、3曲目の「'Round Midnight」の扱いにとても困ってしまいます(笑)。

 
 

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コメント

こんにちは。

成る程…金管楽器が苦手な私はこのアルバムを持って居ません。
マイルスのアルバムは何枚か持って居るのですが、エバンス目当てで買ったモノが多いので…

Miles Davis And The Modern Jazz Giants と Bags' Groove の2枚を買うと良いのですね?

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