こんなアルバムあったんや・14
久々に「こんなアルバムあったんや」シリーズの第14回目。ジャズ者ベテランの域に達すると、ジャズ入門本やジャズ盤紹介本に、まず載ることは無いんだが、内容のある優れたアルバムというものを多々ため込んでいたりする。
そういうアルバムというのは、ジャズ者にとっては、個人的にしばしば愛でる「個人的な隠れ名盤」として、時に、密かに、ジャズ仲間に披露される。そして、お互いがお互いに、その「個人的な隠れ名盤」を紹介し合って、双方で感心したり、別れた後で悔しがったり、感じ入ったり、その「個人的な隠れ名盤」の存在価値というものを再認識するのだ。
ここに、Elvin Jonesの『Earth Jones』(写真左)というアルバムがある。1982年2月10日の録音。ちなみにパーソネルは、Elvin Jones (ds); Dave Liebman (ss, fl); Terumasa Hino (cor); Kenny Kirkland (p); George Mraz (b)。日本ジャズ界のトランペットの至宝、日野皓正の参加が目を引く。
このアルバムは、僕にとっての「個人的な隠れ名盤」の一枚。フュージョン・ブームが過ぎ去りし1982年の、メインストリーム・ジャズな一枚である。
内容的には、ドラマーのエルビン・ジョーンズが、師と仰ぐ故ジョン・コルトレーンの音世界を偲んで作成したアルバムである。基本的には、モーダルでストレート・アヘッドな純ジャズ。コルトレーンを追いかけて、時にフリーキーに、時にアブストラクトにブレイクはするが、そのハードな部分も、コルトレーン・オリジナルに比べれば、実に聴き易い。
デイブ・リーブマンがソプラノにフルートに大活躍。ソプラノはコルトレーンのお得意楽器ではあるが、このアルバムでのリーブマンは、決して、コルトレーンを追いかけてはいない。時にコルトレーン的なフレーズが見え隠れする瞬間はあるが、決して、リーブマンは、忠実なコルトレーンのフォロワーではない。
我らが日野皓正のコルネットも負けてはいない。このアルバムでの日野皓正は個性的。誰にも似ていない、日野独特の個性で、コルネットを熱く吹き上げる。デイブ・リーブマンとの相性は良好で、素晴らしいユニゾン&ハーモニーを聴かせてくれる。
ピアノのケニー・カークランドは、如何にも1980年代を生きるピアニストで、メインストリーム・ジャズ風な堅実で正統派なアコピを聴かせてくれる傍ら、なかなかに魅力的なエレピの旋律も聴かせてくれる。このちょこっと顔を出すエレピもなかなか味わいが合って、アコピとの共存に違和感は無い。
そして、ジョージ・ムラツのベースと主役リーダーのエルビン・ジョーンズのドラム。この二人のリズム・セクションの素晴らしさと言ったら・・・。これだけ、リズム・セクションが優れていると、モーダルでストレート・アヘッドな純ジャズは、ここまで締まった、アーティスティックな表現を実現することが出来るんだ、と改めて感心する。
このアルバムを、仮に、我がバーチャル音楽喫茶『松和』が実際にあったとして、このElvin Jonesの『Earth Jones』をかけたら、お客様の何人かは、必ず、このアルバムのジャケットとリーダー、タイトルを確認しにくると思います。きっと皆、ジャケット・デザインにちょっと落胆しながらも、メンバーを確認して「ほぅ」と感心し、録音年を確認して「なるほど」と感心する。
そして、皆一様に呟くんですよね。「こんなアルバムあったんや〜」。そう言われるとジャズ喫茶のマスター冥利に尽きるってもんですね(笑)。
★大震災から1年半が過ぎた。決して忘れない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力しよう。
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