新しい響きの「新鋭ジャズ」
最近、聴いた日本の若手ジャズ・ミュージシャンのリーダー作の中で、なかなか興味深く、感心した内容だったアルバムが、平戸祐介の『Speak Own Words』(写真左)。クオシモードのリーダー&ピアニスト平戸祐介の自身初となるソロアルバムである。
ドラマー藤井伸昭とベーシスト工藤精との「純ジャズ路線のアコースティック・トリオな編成」と、Tomoki Seto(Cradle Orchestra)やmabanuaなどのトラックメイカーと組んだ「打ち込み路線のリズム&ビートな編成」という、さすが、クラブ・ジャズの雄、クオシモードのリーダー平戸ならではのアレンジがユニーク。
アコースティック・ピアノを中心とした演奏とエレクトリック・キーボードを中心とした演奏の2つに大別される。どちらの演奏形態も、基本となるリズム&ビートがユニーク。ユーロビート風あり、ハウス・ミュージック風あり、ヒップホップ風ありの「今風」なリズム&ビートがベース。
「今風」なリズム&ビートとはいえ、1970年代の終わりには出現していた訳だから、もっと早くにジャズに取り込まれて、ポピュラーなリズム&ビートのひとつになるか、と思っていたが、これがなかなか「そうはならない」。
「融合・融和」としてのジャズは、フュージョン・ジャズから、超絶技巧なテクニックとグラマラスなアレンジと音作りをベースとしたスムース・ジャズへの展開が中心で、なぜか、ユーロビート、ハウス・ミュージック、ヒップホップの取り込みは遅れた。
マイルス・デイヴィスやハービー・ハンコックがその「取り込み」にチャレンジしたが、マイルスはヒップホップに端緒を付けただけで「逝去」、ハービーは中途半端なチャレンジのみで、早々にアコースティック・ジャズへ還っていった。恐らく、マイルスやハービーの様な「チャレンジャー」の後を継ぐ者がいなかったことが大きな理由だろう。
さて、この平戸祐介の『Speak Own Words』、特に、エレピ+シンセを中心にしたエレクトリック・キーボードの演奏の方が「内容が濃い」。
やはり、エレピ+シンセのパフォーマンスの方が、ユーロビート、ハウス・ミュージック、ヒップホップなリズム&ビートに「ノリ易い」のだろう。実にクールに響く「今風」のリズム&ビートに乗って、クールなエレピ+シンセのインプロが展開される。
逆に、アコースティック・ピアノを中心にした演奏については、「今風」のリズム&ビートに乗った時の、アコピの響きを活かしたインプロの展開が「今一歩」。従来の純ジャズ的なアコピの処理が、どうも「今風」のリズム&ビートにノリ切れない雰囲気が、ちょっともどかしい。それでも、演奏全体の雰囲気は「新しい」。今までのコンテンポラリーなメインストリーム・ジャズの雰囲気とは明らかに違う。
最後に、ボーカル入りの3曲は蛇足だろう。このアルバムの、ユーロビート、ハウス・ミュージック、ヒップホップなリズム&ビートをベースとしたメインストリームなジャズという内容に、ボーカル入りの演奏が入る「必然性」が理解出来ない。ヒップホップとしては「あり」かもしれないが、純粋にジャズの演奏としては「不要」だと僕は思う。
初のソロアルバムなので、「今風」のリズム&ビートに乗ったパフォーマンスとして、まだまだ煮詰め方が足らない部分が多々あるし、アレンジメントに関しても、工夫する余地はまだまだあるが、次のソロアルバムを十分に期待させるだけの内容が心強い。映画「タクシー・ドライバー」のテーマ曲、キャロル・キング「ミュージック」のカバーもなかなか洒落ている。
クオシモードではなかなかチャレンジできない、ユーロビート、ハウス・ミュージック、ヒップホップなリズム&ビートをベースとしたメインストリームなジャズを展開するという点で、平戸のソロアルバムとしてのチャレンジは期待出来る。次作が待ち遠しい。
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