鈴木勲の『ヒップ・ダンシン』
一昨日より、ジャズ・ベーシストのリーダー作を集中して特集している。
ベースやドラムは、リーダーの楽器として前面に押し出すのが難しく、いきおい、ベーシストやドラマーがリーダーのアルバムは少ない。今日は、そんな数少ないベーシストのリーダー作の代表的パターンの一つ、リーダーとして自分の音世界をプロデューサーの様に創造していくケースの「日本人ジャズメン版」である。
鈴木勲『ヒップ・ダンシン』(写真左)。1976年4月、クインテットでの吹込み。ちなみにパーソネルは、鈴木勲 (celo), 辛島文雄 (p,el-p), 渡辺香津美 (g), サム・ジョーンズ (b), ビリー・ヒギンス (ds)。鈴木勲は元来ベーシストであるが、このアルバムではチェロに専念している。
鈴木勲のチェロは、8弦張られていて、一音がより明確に力強く響くよう工夫がなされているそうだ。確かに、このアルバムからは、独特なベースの音色がする。この鈴木勲のチェロの音が、このアルバムを独特のものにしているのだ。
本来のアコベの音は、サム・ジョーンズが担当している。このサム・ジョーンズのアコベの音、実に重心が低くて深みがある。このサム・ジョーンズのベースの音もこれまた心地良い。
鈴木勲のチェロとサム・ジョーンズのアコベ、この二人がブンブンやるから、このアルバムの全編に渡って、ベース系の低音が、普通のジャズ・アルバムに比べて、かなりフィーチャーされた音作りになっている。それを聴くと、このアルバムって、ベーシストのリーダー作かなあ、とちょっと思ったりする。けど、決定的では無いなあ。
このアルバムは、ベーシストのリーダー作の代表的パターンの一つ、リーダーとして自分の音世界をプロデューサーの様に創造していくケースの佳作。辛島のアコピ、エレピはストイックでテクニカル。日本人が故に黒さ、ファンキーさが希薄で、サラリとした感触が個性的。ビリー・ヒギンスのドラミングも、ハードバップとクロスオーバー・ジャズの中間をいくスティック捌きで、ライトなファンキーさがこれまた個性的。
しかし、なんと言っても、このアルバムでの目玉はギタリスト、若かりし頃の渡辺香津美だろう。
渡辺香津美のエレギの個性的なことと言ったら・・・。少し捻れ気味でありながら、硬派にスクエア。エッジが立ってパキパキする。ロックでも無ければジャズでも無い。というか、それまで聴いたことのないエレギの響き。この若かりし頃の渡辺香津美がバリバリに弾きまくっているのだ。とにかく凄い。とにかくクール。
ちなみにこのアルバムでは、鈴木勲のチェロとサム・ジョーンズのアコベが二人がかりで、演奏のベースラインをガッチリ押さえて、ベースの奏でる旋律が通常のアルバムよりも前面に押し出ている分、フロントのギターやアコピ、エレピなどの旋律楽器に負けていないところが良い。そう、このアルバムは「ベースが唄っている」のだ。
リーダーとして自分の音世界をプロデューサーの様に創造していくケースの「日本人ジャズメン版」として秀逸な内容のアルバムである。このアルバムを初めて聴いたのは、ジャズ者初心者駆け出しの頃、大学時代である。その時、僕は思った。日本人もなかなかやると・・・。ちょっと誇らしく思ったことを昨日のことの様に覚えている。
ジャケット・デザインも当時の日本人リーダー作のアルバムとしては洒落ていて、良いアルバムです。
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