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2012年6月21日 (木曜日)

聴き易いエレ・マイルスの類似品

僕は、ジャズ・ミュージシャンについては好き嫌いは殆ど無い。しかし、その言動が余りに人の道を外れているので、基本的にその成果を聴くことは無いジャズ・ミュージシャンも一部いる。

人というもの、他人に対しては、特に、プロの同業者に対しては最低限の敬意を払うべきであるが、その微塵も無い言動をする、残念なジャズ・ミュージシャンもいる。ミュージシャンである前に「人」であるべきで、「人」の道を外れた言動を繰り返すミュージシャンが優れた成果を創造できるはずが無い。

僕は、これまで、菊池雅章のアルバムを聴くことは殆ど無かった。しかし、このアルバム『Susto』(写真左)だけは例外。1981年のリリースのエレクトリック・ジャズな盤である。

菊地のキーボード、シンセに、日野皓正、スティーブ・グロスマン、デイヴ・リーブマンというフロント陣。 ベースとドラムス2人、パーカッション4人、そしてギターが3人。1970年代のエレクトリック・マイルスの影響をもろに引きずった作品なんですが、当時、これは良く聴きました。とにかく、聴き易い。

ジャズ者初心者の頃、エレクトリック・マイルスは直ぐに好きになったが、ジャズ者初心者の耳には、エレ・マイルスはちょっとヘビー。重心の低い、疾走感溢れるファンキーなリズム&ビートは耳にぐいぐい突き刺さり、フロントのマイルスのペットやサックスの、間を活かしたモーダルなインプロビゼーションは飛翔するが如く、耳の中を駆け抜ける。当時、エレ・マイルスのアルバムを一枚聴くとグッタリと疲れたものだ。

そんな時、耳直しに聴くアルバムが、この『Susto』。全くエレ・マイルスそのものの展開ばかりなのだが、エレ・マイルスよりも、リズム&ビートは緩やかでファンクネスは薄まっていて、フロントの展開も眩暈を覚えるようなモーダルで自由度の高い展開では無い。
 

Susto

 
スコアを事前に用意された様に、かっちりと形の決まった、先読みのできる演奏。ジャズ者初心者にとっては、とにかく聴き易い「エレ・マイルスもどき」だった。

今の耳で聴くと、ジャズ者初心者当時とは、また違った印象を感じる。エレ・マイルスと比較すると、菊池の展開の方が単調。リズム&ビートも隙間が多く、密度に若干欠ける。シンセの演奏は、当時のギル・エバンスのそっくりさんで、耳当たりは良いがオリジナリティーに若干欠ける。

アルバム全体の印象は、良く事前に準備され、コントロールされた、破綻の全く無い、整然とした演奏が詰まっている、という感じ。リーダーの指示通り、事前に容易されたスコア通り。エレ・マイルスとはかくあるべし、といった風情の「作られたエレ・マイルス」という風情。でも、だからこそ、このアルバムは聴き易く、親しみ易い。

1981年当時のエレクトリック・ジャズやロックの「良いとこ取り」をしたアルバムとも言える。リズム&ビートは、エレ・マイルスとギル・エバンス楽団のそれを取り入れながら、トーキング・ヘッズなどのアフリカン・ネイティブな複合リズムも巧みに取り入れている。若干オリジナリティーには欠ける感は否めないが、融合の音楽としてのジャズとしては、これもまた「あり」である。

インプロビゼーションを含めた演奏全体の展開は、ハプニングが少なく、事前にスコアを用意されていたかのような整然さ。逆に、だからこそ、このアルバムは聴き易い。エレ・マイルスのミニチュアとして、エレ・マイルスを理解し、エレ・マイルスに馴れる一助として最適なアルバムである。

このアルバムは、ジャズ者初心者の時代、本当に良く聴いた。特に、3曲目の「Gumbo」は、そのレゲエ調のリズム&ビートに乗った、ギル・エバンス調のシンセ、エレピの音色と展開が心地良く、大好きな演奏である。
 
 

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コメント

あんしん堂あらため藤按です。
私、若い頃、菊池雅章氏と一緒に酒を飲む機会がありましたが、なんだか難しい人だなあ、といった陰症でした。

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