これぞ新伝承派と言えるプレイ
僕は、1980年代、ウィンストン・マルサリスを中心とした、伝統的なアコースティック・ジャズを継承するグループの「音」が好きだ。
この伝統的なアコースティック・ジャズを継承するグループについては、当時、ジャズ雑誌「スイングジャーナル」では、「新伝承派」というネーミングを提唱したが、「伝承」という言葉について、ジャズは「過去の伝統」の様に聞こえるところが引っ掛かったみたいで、あまり定着しなかった。でも「伝統的なアコースティック・ジャズを継承するグループ」はとても長いネーミングなので、僕は便宜上、「新伝承派」というネーミングをよく使う。
その「新伝承派」のピアニストとして名を馳せたMulgrew Miller(マルグリュー・ミラー)。僕はこのマルグリュー・ミラーのピアノが「お気に入り」。
彼のスタイルは、それまでのジャズ・シーンの中で「ありそうでない」スタイルをしている。部分部分を聴きかじると、過去の誰かのスタイルと同じじゃないか、と思うんだが、全体を通じてしっかり聴くと、過去の誰かのスタイルを踏襲していることは無い。
展開、音の重ね方、指捌き、どれをとっても「マルグリュー・ミラー」オリジナルである。決して、一聴して「それ」と判る様な派手派手しい個性では無い。でも、これが、僕に取っては、なかなかに興味深い。
今でも、マルグリュー・ミラーの初期のリーダー作の中で、特に良くCDのトレイに載るアルバムが『Wingspan』(写真左)。1987年5月の録音。ちなみにパーソネルは、Mulgrew Miller (p), Kenny Garrett (as,fl), Steve Nelson (vib), Charnett Moffett (b), Tony Reedus (ds), Rudy Bird (perc)。アルトサックスをフロントに据えて、ヴァイブとパーカッションを加えたセクステット構成。
マルグリュー・ミラーのピアノは、ファンキー臭さが殆ど無い。端正かつ華麗なピアノの響き。ハイテクニックではあるが、決して、ビ・バップの様に派手派手しく立ち回らない。モーダルな展開ではあるが、決して間延びしない。多弁ではあるが耳に付かない、クールな「シーツ・オブ・サウンド」。アーシーでは無いが、しっかりと鍵盤を押さえるようにベースラインを効かせた左手。
どこかで聴いたことがある様なピアノなんだが、よくよく聴くと、決して、誰かのピアノのフォロワーでは全く無い。奏でるフレーズはどれもが、マルグリュー・ミラーのオリジナル。
アルトのケニー・ギャレットも良い音を聴かせてくれる。若かりし頃のケニー・ギャレットのベスト・プレイに近い内容ではないか。良く鳴るアルトに、良く展開する指。歌心溢れるインプロビゼーション。ケニー・ギャレットのアルトもファンキー臭さが殆ど無い。マルグリュー・ミラーと同じ、端正かつ華麗なアルトの響き。多弁過ぎず寡黙過ぎず、適度に抑制された、理知的なフレーズ。
マルグリュー・ミラーとケニー・ギャレットの「これぞ新伝承派」と言えるプレイが傑出した良い内容です。1980年代の「新伝承派」の音を聴かせて、とリクエストされたら、結構な頻度で、この『Wingspan』をかけます。新伝承派共通の溌剌としてポジティブで理知的なプレイが実に心地良いアルバムです。
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