「春」のビル・エバンス
春が来ると、春の雰囲気にあったジャズのアルバムを聴くようになる。30年来、ジャズを聴き続けて来て、お気に入りのアルバムの中から、春の雰囲気にあったアルバムを探したりする。いや、30年もの間、ジャズを聴き続けているのだ。春の雰囲気にあったアルバムは既に頭の中にある。
ジャズ・ピアニストの中で、一番のお気に入りは、と問われれば、「ビル・エバンス」と答える。現代ピアノ・トリオの祖、ビル・エバンスは、ジャズを聴き始めた頃からの「お気に入り」。リリカルで美しく流れるようなフレーズを、「間と緩急」を活かした奏法で紡ぎ上げていく。そんなビル・エバンスのピアノは、ジャズ・ピアノの表現の中でも「極上」のものである。
そんなビル・エバンスのアルバムの中から、「春」のビル・エバンス、「春」によく聴くアルバムはと言えば、なぜか『Interplay』(写真左)。
1962年7月の録音。ちなみにパーソネルは、Freddie Hubbard (tp), Bill Evans (p), Jim Hall (g), Percy Heath (b), Philly Joe Jones (ds)。ビル・エバンスがリーダーのクインテット編成である。
冒頭の「You And The Night And The Music(あなたと夜と音楽と)」の、良くアレンジされた演奏の雰囲気が、なぜが「春」を連想させる。 フレディ・ハバードのトランペットは光り輝くような音を振りまき、ジム・ホールのギターは柔らかで優しいフレーズでじんわりと心を振るわせる。フィリー・ジョーのドラムは、メリハリ良く、バシッバシッと気合いを入れるようにビートを刻み、ヒースのベースは堅実に演奏の底を支え続ける。
クインテット一体となった音が、なんだか「春」という雰囲気にピッタリ、というか、「春」という雰囲気の中で流れるのにピッタリと言ったら良いのか。この「あなたと夜と音楽と」一発で、「春」のビル・エバンス、という感じにピッタリ填まる。
そして、2曲目の有名曲「When You Wish Upon A Star(星に願いを)」のバラード演奏が絶品。ちょっとアンニュイな雰囲気漂う名演で、ジム・ホールの気怠い柔らかな音が実に「春」らしい雰囲気を醸し出す。ハバードも抑制したペットを聴かせて、決して熱くならない。そして、ビル・エバンスの「間と緩急」を活かしたインプロビゼーションは、墨絵を愛でるが如く、淡い音の濃淡が素晴らしい陰翳を見せて、春の霞の中、遠くに山の風景を見るような、素晴らしい展開に惚れ惚れする。
良くアレンジされ、ほどよくコントロールされた、柔らかでアンニュイな「星に願いを」。これは、大人の「星に願いを」である。
溌剌とした、明るい演奏の「I'll Never Smile Again」も、実に「春」にピッタリの演奏で惚れ惚れする。クインテットのメンバーそれぞれのソロは、いずれも実にポジティブ。メンバー全員が溌剌としたインプロビゼーションを繰り広げる。この溌剌さは眩しいばかり。「春爛漫」という言葉がピッタリな「I'll Never Smile Again」。
ビル・エバンスのピアノ・トリオに、テクニシャンのトランペッターのハバードと、いぶし銀の様な職人ギターのホール、この二人が参入して、演奏全体がポジティブになり、演奏全体に溌剌さが漲る。そして、ビル・エバンスの「間と緩急」を活かしたインプロビゼーションは、淡い音の濃淡が素晴らしい陰翳を見せて、幽玄な、変幻自在な音の展開を聴かせてくれる。
「春」のビル・エバンス。僕にとっては、まずはこの『Interplay』で決まり、である。
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