待望の「東京ワシントンクラブ」
僕の高校時代、井上陽水と言えば、叙情派フォークの代表の様なイメージだった。「心もよう」「人生が二度あれば」「傘がない」「つめたい部屋の世界地図」「夏まつり」「神無月にかこまれて」「紙飛行機」「能古島の片想い」などが人気で、感傷を強調した、アコースティック・ギター中心のフォーキーな世界が受けていた。
けど、僕が気に入った陽水は、そんな叙情派フォークな陽水では無く、ロックのリズムをベースとした、フォーク・ロックなビートを効かせた曲の方が、僕はお気に入りだった。例えば「感謝知らずの女」とか「断絶」「氷の世界」「東へ西へ」「夜のバス」がお気に入り。
井上陽水は叙情派フォークの人と一般には評価されていたが、意外とロックな演奏を初期の頃からしている。僕は、そんなロックな陽水が好きで、フォーク好きな周りの常識的な友人達とは全く話が合わなかった。
1976年12月、井上陽水のライブ盤がリリースされる。タイトルは『東京ワシントンクラブ』(写真)。正確には、この「東京ワシントンクラブ」は、当時の陽水の「GOING ONツアー」のライブ音源と、陽水の自宅スタジオ「東京ワシントンクラブ」でのスタジオ録音の作品が2曲入っている、変則ライブ盤である。
スタジオ録音は、LP時代、A面のラスト、5曲目の「あかずの踏切り'76」と、B面の1曲目「東京ワシントンクラブ」の2曲。
「あかずの踏み切り‘76」は、「もどり道」のそれでも、「氷の世界」のそれでもなく、米国西海岸ロック風の、流れるようなメロディラインを持った、爽やかな曲に大変身している。これには当時戸惑った。「東京ワシントンクラブ」は、「My House」や「アジアの純真」に通じる、陽水独特の語呂あわせのような歌詞が特徴で、これは陽水らしくて当時からお気に入りだ。
そして、この変則ライブ盤『東京ワシントンクラブ』の目玉は、残りの9曲のライブ音源である。「氷の世界」「かんかん照り」「御免」などは、叙情派フォークの雰囲気など微塵も無い、完全に「ロック」である。
叙情派フォークな雰囲気を漂わせている「ゼンマイじかけのカブト虫」や「小春おばさん」についても、ハードな演奏内容で、叙情派フォークな「感傷」は微塵も無い。ロックな陽水が好きだった僕にとっては、これは「痛快」だった。ラストの「夜のバス」など圧巻の一言。陽水の力感溢れるボーカルと完全にロックな演奏は「まさに圧巻」である。
しかし、このライブ盤、録音状態はイマイチで、はっきり言って音は悪い。アルバムとしても、かなり「やっつけ」で作られた感が強く、一般には、なかなか受け入れられないでしょうね。でも、録音状態は悪くても、このロックな陽水のライブは実に魅力的です。
実はこのライブ盤は、陽水のアルバムの中で、唯一CD化されていない、アナログ音源だけのライブ盤です。僕は、当時、FMからのエアチェックで部分的にコレクションしつつ、カセットにまとめ上げ、学生時代はこのカセットを愛聴していました。
そう言えば、なぜか、スタジオ録音の「東京ワシントンクラブ」と「あかずの踏み切り‘76」の2曲と「ゼンマイじかけのカブト虫」と「小春おばさん」のライブ音源が欠落していました。それでも、ライブ音源部分の7曲はなんとかキープできて、僕にとって「お宝テープ」でした。
LP時代に買いそびれてしまい、まあそのうちCD化されると、たかをくくっていたんですが、全くCD化の気配が無い。半ば諦め基調だったのですが、今回、ひょんなことから、デジタル音源の入手が実現。実に嬉しかった。早々にリッピングして、iTunesでアルバム形式に編集して、立派にアルバムを復元できました。
この『東京ワシントンクラブ』というライブ盤には、当時の「ロックな陽水」がしっかり記録されています。リマスターを前提として、CD化が望まれる一枚だと思いますが如何でしょうか。
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