なかなかいける 『Kulu Se Mama』
コルトレーンのリーダー作の聴き直しも、いよいよ後半も後半、逝去するまでの最後の2年間の「超フリー・ジャズ」の時代に差し掛かる。この2年間のコルトレーンは、もはや一般のジャズ者の手に負えるものでは無くなっていく。フリー・ジャズを受け入れるだけの「感性の許容量」を保持するものだけが耳を傾けることのできる「超フリー・ジャズ」の完全アブストラクトな音世界が、ただただ広がるばかりになっていくのだ。
その入り口に位置するアルバムの一枚に『Kulu Se Mama』(写真左)がある。1965年6月と10月の録音を一枚のアルバムにまとめたもの。タイトル曲で1曲目の「Kulu Se Mama」は10月14日の録音。2曲目の「Vigil」は6月16日の録音。3曲目「Welcome」は6月16日の録音になる。つまり、曲毎に録音日はバラバラ。
パーソネルは、John Coltrane (ts), McCoy Tyner (p), Jimmy Garrison (b), Elvin Jones (ds)で「Vigil」と「Welcome」を、Donald Garrett (bcl, b), John Coltrane, Pharoah Sanders (ts), McCoy Tyner (p), Jimmy Garrison (b), Elvin Jones (ds), Frank Butler (ds, per), Juno Lewis (vo, per)で「Kulu Se Mama」となっている。
まあ、基本はあくまで「伝説のカルテット」。そこに「Kulu Se Mama」だけは、バスクラ、テナー、ドラム、ボーカルが客演するという趣向。つまり「Kulu Se Mama」は、ダブル・テナーにダブル・ドラム、ダブル・ベース、ダブル・パーカッションという実にユニークな楽器構成になっている。
ちなみに、この「Kulu Se Mama」という演奏が聴きものである。ボーカルとダブル・ドラム+ダブル・パーカッションを前面に押し出して、出だしから「ワールド・ミュージック」的な、所謂、アフリカン・ネイティブで土俗的な響きが実にユニーク。1970年代に入ってジャズ界のトレンドとなる「ワールド・ミュージック的なアプローチ」の走りがここに聴いて取れる。
この土俗的な響きに呼応するように、この土俗的な響きとは正反対の泣き叫ぶ様な、激情に嘶くようなテナーの叫びが鳴り響く。このテナーの響きが完全に「アブストラクト」。調性を全く取っ払った無調性な響き。もはや「音楽」とは呼べない、完全即興演奏のイメージが垣間見える。
この「Kulu Se Mama」の演奏は、リズム・セクションのMcCoy Tyner (p), Jimmy Garrison (b), Elvin Jones (ds)が、調性の取れた、フリー一歩手前のモダンでモーダルな演奏を維持しているので、演奏全体を通じて「聴いて楽しむ音楽」として扱うことが出来る。アフリカン・ネイティブで土俗的な響きが実に斬新である。今の耳にも十分に「新しく」響く。
2曲目の「Vigil」は、John Coltrane (ts)とElvin Jones (ds)のデュオ。エルビンのポリリズミックで豪快なドラミングに乗って、コルトレーンがフリーキーにテナーを吹き上げる。しかし、ここでのコルトレーンのテナーは、調性が取れた、実に魅力的なフレーズを宿したものであり、フリーキーに吹いてはいるが、結構、聴き応えがある。激しくフリーキーではあるが、十分鑑賞に耐える魅力的なデュオ演奏である。
そして、3曲目の「Welcome」は、静謐なバラード演奏。静かに美しいフレーズを紡ぎ上げながら、コルトレーンがテナーを吹き上げていく。タイナーのバックで力強いハープの様なピアノが美しい。爽やかな怒濤の様なエルヴィンのドラムも素晴らしい。しかし、如何せん演奏が5分半程度と短いのが玉に瑕。サンプルを聴いている様で、聴き終えた瞬間、欲求不満に陥る。それほどまでに美しい演奏。
この『Kulu Se Mama』というアルバム、収録された3曲は寄せ集めで、演奏コンセプトはバラバラだが、それぞれの演奏自体、いづれも内容のある、充実の演奏ばかりである。逝去するまでの最後の2年間のアルバムの割に、アブストラクトでフリーキーなトーンはあまり耳につかず、アルバム全体の「音の統一感」は無いが、伝説のカルテットの名演集として、このアルバムはお勧めである。但し、演奏内容は「かなりハード」である。ジャズ者初心者の方々にはちょっとしんどいかもしれない。
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