PMGの最初の成熟 『First Circle』
1975年、『Bright Size Life』で初リーダー作をECMレーベルでリリースして以来、Pat Metheny(パット・メセニー)は、ECMレーベルの看板ギタリストの一人だった。
そして、そのECMレーベルからのリリースの最後のアルバムが『First Circle』(写真左)。1984年のリリース。1984年2月15-19日の録音。ちなみにパーソネルは、Pat Metheny (g), Lyle Mays (p,syn), Steve Rodby (b), Pedro Aznar (vo,per etc.), Paul Wertico (ds)。
既に、この『First Circle』では、ECMレーベルの総帥マンフレッド・アイヒャーは作品に関与しておらず、代わってメセニー自身がプロデューサーを務めている。つまりは、ECMレーベルの音世界を逸脱しつつある瞬間を捉えた、パット・メセニー・グループ(以降PMGと略す)の「最初の成熟」の瞬間を捉えたアルバムである。
冒頭の「Forward March」でズッ転ける。奇想天外な、調子っぱずれ、冗談の様な演奏。どうして、こんな「おふざけ」を一曲目に持ってきたのか。LP時代、このアルバムを初めて聴いた時は「ひっくり返った」(笑)。何か深い意味があるのかなあ。ご存知の方は是非とも教えて頂きたい(笑)。
冒頭の奇天烈な1曲は置いておいて、2曲目の「Yolanda, You Learn」から、PMGの世界が広がる。フォーキーで明るい、全くもって「黒さ」の無い、爽快感と疾走感溢れ、米国の自然の原風景を彷彿とさせる「ネイチャー・ジャズ」と呼ぶべき音世界。これぞ、これまでのPMGの十八番と呼ぶべき音世界。
しかし、演奏の途中から、新加入のペドロ・アズナールの幻想的なボイスが入ってくると、その十八番と呼ぶべき「ネイチャー・ジャズ」な雰囲気に、アフリカン・アメリカンのネイティブ・ミュージックの如き、アーシーでアフリカンな、ディープで抒情的な音世界が色濃く広がる。それまで「白かった」音世界に、適度な「黒さ」が広がる。とてもジャジー、とてもアフリカン。
そして、これまた新加入のポール・ワーティコのドラムの雰囲気は、一個で言うと「ブラジリアン」。ブラジルのリズムを彷彿とさせる躍動感と疾走感溢れる、ポリリズムックなリズム&ビート。このブラジリアンな「リズム&ビート」のお陰で、アーシーでブラジリアンな、軽快でポジティブな音世界が色濃く広がる。それまでの「フォーキー」なリズムに、うっすらと「ラテン」なリズムが加わる。
以降、他の収録曲でも、この新加入のペドロ・アズナールの幻想的なボイスとポール・ワーティコの「ブラジリアン」なドラムの雰囲気が相乗効果的に醸し出す音世界は、それまでのPMGの音世界に、アーシーでアフリカンな、ディープで抒情的な音世界とアーシーでブラジリアンな、軽快でポジティブな音世界を加えて、新しいPMGの「音世界のプロトタイプ」を我々に提示する。
面白いことに、フロントを張るパットのギターとメイズのキーボードの音世界は全く変わらない。二人が出会ってPMGを結成した頃と全く同じ。ドラムが供給するリズム&ビートとボイスが供給するアーシーで幻想的な響きがバックに漂うことで、PMGの音世界は、次なる展開となる「新しい音世界」のイメージにガラリと変わる。特に、パットのライブで必ずと言って良いほど演奏される曲、タイトル曲の「First Circle」の音世界がその「代表例」です。
ドラムのポール・ワーティコ、ボイス&その他楽器担当のペドロ・アズナールの両名を新メンバーに迎えて転換期に突入したPMGの「最初の成熟」の瞬間を捉えた『First Circle』。素晴らしい音世界です。PMGの最初の成熟の瞬間として、PMGを愛でる上で欠かせない傑作の一枚でしょう。
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通りすがりのコメントです。(適当に読み飛ばしてください)
1曲目のことですが……
Pat Methenyは、以前、聖歌隊に在籍していたことがあったこと(フレンチホルンを吹いていたような?)
それから、「ファースト・サークル」発売当時、カーラ・ブレイとか、アート・アンサンブル・オブ・シカゴとか、バンドで「共同体」を表現しようとする流れがあって、そういうのを斜めにみながら、アルバム全体のモチーフに関連づけて、大真面目で遊んで作った曲ではないかと思ってます。(確信犯~♪)
でも、最初聴いたときは、あまりのブッ飛びぶりに「誰?、この人?」と思いましたね。(そこが狙いか?)
投稿: 通りすがり | 2012年5月23日 (水曜日) 06時18分
はじめまして、「通りすがり」さん。松和のマスターです。
コメントありがとうございます。う〜ん、この『First Circle』の1曲目のエピソード。
判る様な気がします。きっと、メセニーってかなり大まじめで、この曲を作って、
演奏したと、僕も思うんですよね。
でも、確かに、初めて聴いた時には、やっぱり「誰?、この人?」と思いますよね〜。
うんうん、判ります。最初は、僕もビックリしましたw。
投稿: 松和のマスター | 2012年5月23日 (水曜日) 20時56分