ビッグバンド・ジャズは楽し・16
当ブログでは、幾つかの特集シリーズがあります。右の「カテゴリー」にあるのですが、今日の「ビッグバンド・ジャズは楽し」シリーズはジャズ者万人向け。僕自身がビッグバンド・ジャズ初心者。ビッグバンド・ジャズの勉強の成果を恥ずかしながらお披露目しているコーナーです。
さて、今日の「ビッグバンド・ジャズは楽し」は第16回目。今日は、ビッグバンドでのコルトレーン・ミュージックの再現という盤を取り上げてみましょう。
ビッグバンドでコルトレーン・ミュージックを再現する。今まで、様々なアレンジャーがこのテーマにチャレンジしてきています。「再現」といっても、コルトレーンのテクニックと個性をビッグバンド・ジャズで応用し再現する、若しくは、コルトレーンの楽曲を精神とコンセプト丸ごと、ビッグバンド・ジャズでバッチリとカバーする、かのどちらかですね。
大多数のチャレンジは、コルトレーンのテクニックと個性をビッグバンド・ジャズで応用し再現する、ですが、これがあんまし面白くない。やはり、コルトレーン・ミュージックのテクニックと個性は、その精神とコンセプトがバックにあってこそ、映えるものなんですね。
そういう意味では、コルトレーンの楽曲を精神とコンセプト丸ごと、ビッグバンド・ジャズでバッチリとカバーするアプローチが、ビッグバンドでコルトレーン・ミュージックを再現する時の最良ということが言えます。しかし、そういう観点でビッグバンドのアルバムを見渡すと、これがなかなか見当たらない(笑)。
なんせ、コルトレーン自身がビッグバンドのブラス・アンサンブルを核にチャレンジした『Africa / Brass』を真っ先に思い出すくらいだ。やはり、コルトレーンの楽曲を精神とコンセプト丸ごと、ビッグバンド・ジャズでバッチリとカバーする仕業は、コルトレーン・ミュージックをしっかりと体感していないと出来ない仕業なんだろうな、とも思う。
しかし、コルトレーンの『Africa / Brass』は、音楽監督を務めたエリック・ドルフィーに母屋を乗っ取られたような内容に陥ってしまった。以来、コルトレーンは、自らの音楽をビッグバンドで表現することはしなかった。
そういう意味で、コルトレーンの楽曲を精神とコンセプト丸ごと、ビッグバンド・ジャズでバッチリとカバーするアプローチの最大の成功例が、McCoy Tyner『Song of the New World』(写真左)でしょう。1973年4月の録音。ちなみに主だったパーソネルは、McCoy Tyner (p), Hubert Laws (fl), Sonny Fortune (as,ss,fl), Joony Booth (b), Alphonse Mouzon (ds), Jon Faddis (tp)。
しかし、この『Song of the New World』では、コルトレーンが乗り移ったかのように、リーダーでピアニストのマッコイ・タイナーが、コルトレーンの楽曲のスピリチュアルな精神とコンセプトを完璧に踏襲し、シーツ・オブ・サウンドで弾きまくる。コルトレーンのテナーをピアノに完璧に置き換えたような凄まじい演奏。鬼気迫るマッコイ・タイナーの独壇場である。
バックのメンバーの演奏も素晴らしい。ジョン・ファディスのトランペット、ヒューバート・ロウズのフルート、ソニー・フォーチュンのソプラノ・サックス。いずれも、コルトレーンの楽曲のスピリチュアルな精神とコンセプトを完璧に踏襲し、シーツ・オブ・サウンドで吹きまくる。
そして、そのフロントの演奏をガッチリとバックで支えるのが、アルフォンソ・ムザーンのドラムとジョニー・ブースのベース。ムザーンのドラミングは、デジタルチックで端正で等間隔なリズム&ビート。この端正で等間隔なリズム&ビートが、コルトレーン・ミュージックを奏でるビックバンドをしっかりと「整える」。そして、太いブースのベースがコルトレーン・ミュージックを奏でるビックバンドをしっかりと「支える」。
さすが、マッコイ・タイナー。この『Song of the New World』は、コルトレーン本人がリーダーの「伝説のカルテット」の中で、コルトレーン・ミュージックを直接体感した、コルトレーン・ミュージックの伝道師的立場にあったからこそ出来る、マッコイならではの仕業である。
このマッコイの「ビッグバンドでのコルトレーン・ミュージックの再現」を聴いていると、マッコイが一番理想とするコルトレーンは、こういう演奏するコルトレーンなんだよ、と教えてくれるように聴こえる。そして、この演奏でのコルトレーン・ミュージックは、激しい演奏にも関わらず、耳にもたれない。激しい割に聴き易く、激しい割に耳に馴染む。
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