野球に関するジャケットが面白い
Eric Alexander(エリック・アレキサンダー)は中堅のテナーマン。1968年生まれなので、今年で44歳になる。1991年のセロニアス・モンク・コンペティションで銀賞獲得した時は弱冠23歳。まだまだ若手と思っていたのだが、あれからもう20年になるのか。44歳と言えば立派な「中堅」である。
モンク・コンペティションで銀賞獲得を機会にシカゴからNYに進出。92年よりほぼ毎年のペースで、コンスタントにアルバムをリーダー作をリリースし、若手ジャズメンとしては異例の好セールスを記録している。現在において、アコースティック・ジャズのど真ん中を行くテナー・サックス奏者である。
一昨日、このブログで「野球に関するジャズのアルバム」について語った訳だが、そう言えば、ジャケットが「もろ野球」しているアルバムがあるのを思い出した。
エリック・アレキサンダーの、1992年の初リーダー作の『New York Calling』から数えて8作目になる『Heavy Hitters』(写真左)である。1997年12月の録音。ちなみにパーソネルは、Elic Alexander (ts), Harold Mabern (p), Peter Washington (b), Joe Farnsworth (ds)。
ジャケットの写真を見ると、思わず笑ってしまう。なんと、ユニークなジャケットであろう。エリックは大の野球ファンらしい。しかも、ニューヨーク・ヤンキースの大ファンとのこと。カルテットのメンバー全員がヤンキースのユニフォームを着て、バットを握ってポーズを取っている。なんともジャズ盤らしからぬ、楽しいジャケット写真である。
しかも驚くことに、ライナーノーツの見開きには、別のショットで、大リーグの審判の格好をした、ジャズアルバム録音の神様「ルディ・ヴァン・ゲルダー」も一緒に写っている。天才録音技師として有名なルディではあるが、天才故に「変人」な面もあることで有名な人なんだが、よく、こんな格好したもんだなあ。
それだけ、ルディはエリックのカルテットの音を「かって」いるのかもしれない。そう、ルディの録音のこのアルバム、まず、音が凄い。それだけでもこのアルバムは「買い」だ。
そして、その素晴らしい録音の中、エリックのテナーが実に映える。このアルバム、エリックのテナーのワン・ホーン盤だけあって、エリックのテナーを心ゆくまで楽しむ事が出来る。全編に渡って悠然と音数を選んで吹くエリックのテナーは実に個性的だ。
この頃のエリックは、若手テナーマンがほとんど陥る「コルトレーン症候群(超絶技巧なテクニックに走って歌心を二の次にする傾向)」には傾いておらず、シンプルで歌心を湛えたインプロビゼーションが凄く魅力的だった。
さて、アルバムの内容はといえば、オープニングの「Mr.Stitt」に暫く耳を傾けただけで、もう、このアルバムの素晴らしさが約束されたようなもの。よく抑制の利いた、それでいて力強いエリックのテナー。3曲目の「Rakin' & Scrapin'」なんか、絵に描いたような「ファンキー」なナンバー。
そして、素晴らしいのは、5曲目「On A Slow Boat To China」の高速テナー。高速テナーとは言っても、超絶技巧なテクニックには走らない、シンプルで歌心を湛えた、素晴らしい高速テナー。ワン・ホーン盤が故、エリックのブロウを堪能出来る。
ピアノのメイバーンも絶好調。ベースのワシントンは、ブンブンとベースを気持ちよく歌わせ、ドラムのファンズワースは、堅実かつ「うまい」ドラムスを披露する。このメンバーで、おかしなアルバムになる道理が無い。どの曲も一気に聴き切ってしまう佳作揃い。
極めつけは、8曲目の「Maybe September」。エリックの実力の程を証明する素晴らしいバラード演奏。まあ、一度、聴いておくんなさい。
野球に関するジャケットが面白い、カルテットのメンバーを「強打者」に見立てたこのアルバム。なかなか凄いアルバムです。
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