超有名曲に惑わされずに... 『Left Alone』
ジャズ・ミュージシャンのリーダー作には、後に巷で有名になってしまった収録曲がクローズアップされ過ぎて、そのアルバムの本質とは全く外れたところに評価が定着してしまった「不幸なアルバム」が結構ある。
最近、聴いたアルバムでは、Mal Waldronの『Left Alone』(写真左)がそんな、ちょっと「不幸なアルバム」に当たる。冒頭に収録されている、タイトル曲「Left Alone」があまりにクローズアップされ過ぎて、このMal Waldronの『Left Alone』というアルバムは、タイトル曲「Left Alone」さえ聴けばそれでOKみたいな評論が多々あって閉口する。
そして、その的外れは評論は、このタイトル曲「Left Alone」という悲しみのバラードにおける、ジャキー・マクリーンが綿々と吹き綴る「泣きのアルト」を湛えるものばかり。ビリー・ホリディが晩年に好んで歌ったと言われる悲しみのバラード「Left Alone」をマクリーンが印象的な泣きのアルトで歌い上げる。その一点のみを褒め称え、このアルバムは名盤であると言い切る。
困ったもんやなあ。この『Left Alone』というアルバム、元を正せば、マル・ウォルドロンのリーダー作なんですけどねえ。
しかし、この『Left Alone』は、マル・ウォルドロンの代表作としても良い内容の演奏が詰まっているのでご安心を。と言っても、冒頭のタイトル曲以外の2曲目以降の演奏に、マル・ウォルドロンの代表的演奏が詰まっている。
この『Left Alone』、1959年2月の録音になる。ちなみにパーソネルは、Mal Waldron (p), Julian Euell (b), Al Dreares (ds)。マル以外のベース、ドラムはほぼ無名だと思う(僕は知らない)。1曲目の「Left Alone」のみJackie McLean (as)が加入。ベツレヘム・レーベルに録音された異色盤ではある。
ブルージーでミッドテンポな、2曲目「Cat Walk」の前奏部分のゴツゴツ感豊かで、ちょっとアブストラクトなピアノは、マルのピアノの特徴が溢れている。3曲目の有名なバラード曲「You Don't Know What Love Is」ですら、マルのゴツゴツ感豊かなピアノのフレーズで、パキパキ硬質な黒さが演奏の底に漂います。4曲目以降「Minor Pulsation」からラストの「Airegin」などは、お得意の速いテンポの曲で、マルの硬質なタッチのピアノが縦横無尽に展開されています。
マル・ウォルドロンのタッチは硬質で端正。しかし、硬質なタッチの底に、もやっとした黒いブルージーな雰囲気が横たわっている。そして、端正な弾きこなしの端々にラフな指さばきが見え隠れする。この「黒い情感と適度なラフさ」がマルの特徴。
クローズアップされ過ぎて、後に巷で有名になってしまった冒頭のタイトル曲以外の2曲目以降の演奏に、マルの特徴的なピアノがぎっしりと詰まっている。この『Left Alone』の2曲目以降にマルのピアノの真骨頂がある。マルのピアノを感じ、マルのピアノを愛でるのであれば、この『Left Alone』の2曲目以降を聴け、である。
余談にはなるが、CDでのラストトラックである「The Way He Remembers Billy Holiday」は、マルのインタビューでの談話である。これは蛇足だろう。
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