今日はマイルスの誕生日
1926年5月26日、マイルス・デューイ・デイヴィス三世(Miles Dewey Davis III)の誕生日である。生きていれば、85歳となる。が、実際は、1991年9月28日に逝去している。享年65歳だった。今の時代、少し短い生涯であった。
マイルスのアルバムは、有名である分、なんとなく取っつきやすそうだが、実は意外と難易度は高い。ジャズ者初心者駆け出しの頃では、マイルスのアルバムを聴いて、いきなり感動することは、なかなかに難しいと思う。僕も最初の頃は、さっぱり判らなかった。それでも、ジャズ界で一番有名なマイルスである。判らない、で済ます訳にはいかない。
では、マイルスのアルバムの中で、僕がジャズ者初心者駆け出しの頃、どのアルバムが、最初の「愛聴盤」になったのか。遠く遠く昔々、大学時代の頃に遡る。ジャズを聴き始めて1年位だったかな。そう、『Sketches Of Spain』(写真左)が、僕にとっての最初の「愛聴盤」だった。
初の「愛聴盤」になった決め手は、かの有名なクラシックの名曲「アランフェス協奏曲(Concierto De Aranjuez)」が収録されていること。天才アレンジャー、ギル・エバンスとの合作であり、ギル・エヴァンスのアレンジによるオーケストラとの共演アルバムでもあり、マイルスの数多い作品の中でも重要な傑作。
この「アランフェス協奏曲」、20世紀を代表するスペインの盲目のギタリスト、ホアキン・ロドリーゴがギターのために書いたクラシックの名曲で、アランフェスとは、水と森の緑に恵まれた、スペインの首都マドリード郊外の土地の名で、古くから王の離宮が建てられた風光明媚な場所の名前。ロドリーゴは、夫人とともにこの土地を訪れ、大地の自然を余すところ無くその触感で感じ取り、曲想を練ったと言われている。
とりわけ有名な第2楽章は「愛のアランフェス」として有名になったが、実は、当時、この世に生を受けることなく、息子を失なった夫人への「慰め」が込められたものだと、ロドリーゴ自身、後日、語っている。
大学時代、この演奏を初めて聴いた時、唖然としたのを覚えている。正直言って、ジャズがこんなに繊細かつダイナミックな、言い換えると、クラシックと匹敵する、いや、ある面、クラシックを越える表現力を持っているとは思わなかった。ショックだった。
とにかく、リリカルで、静謐かつダイナミック、しかも幽玄という変幻自在のアレンジと演奏で、この「アランフェス協奏曲」を一気に聴かせてしまう。マイルスのトランペットが哀愁豊かに鳴り響き、バックのジャズ・オーケストラは、そのマイルスのトランペットをより引き立たせていく。
ジャズが、なんだか荒々しく、ちょっとアウトロー的な、俗っぽい音楽じゃないか、と思われている皆さん、このマイルスとギルとのコラボレーションの奇跡である、この「スケッチ・オブ・スペイン」の「アランフェス協奏曲」を聴いてみて下さい。
「アランフェス協奏曲」の他に、マイルスとギルのコラボレーションならではの曲が並んでいるが、やはり、この「アランフェス協奏曲」が傑出している。この演奏は、「なぜジャズが芸術のジャンルの一角を占めているのか」、「ジャズの芸術性とはなにか」という疑問に、ひとつの答を出しているような、そんな歴史的名演です。
ちなみに、この曲のライヴ・ヴァージョンはマイルスの『コンプリート・カーネ ギー・ホール(AT CARNEGIE HALL THECOMPLETE CONCERT)』で聴くことができる。これもチャンスがあったら、聴いて欲しい逸品です。
マイルスの命日。マイルスも生きていたら85歳。ピアニストのハンク・ジョーンズは、92歳まで現役だったから、85歳だって、まだまだ現役でいられたはず。85歳のマイルス。2011年のマイルス。見てみたかった。そのトランペットを聴いてみたかったなあ。どんな音を出していたんだろう。
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