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2011年4月14日 (木曜日)

本気のディスコ・ハンコック 『Monster』

今の耳で、ディスコ・ミュージックを聴いてみると面白い。純ジャズ出身の一流ジャズメンがやるヤツは、ファンキー・ジャズやR&Bな要素を採り入れながら、超絶技巧なテクニックを駆使して、硬派にディスコ・ミュージックを展開する。その代表的存在がハービー。ジャズ畑で彼の右に出る者はいない。

そんなハービーが、遂に本職のヴォーカリスト達を起用して、全曲ボーカル入りという、もう全くと言っていいほど、フュージョン・ジャズなアルバムでは無い、完璧なディスコ・アルバムとしてリリースしたアルバムが『Monster』(写真左)。1980年のリリース。僕は当時、大学生。リアルタイムにこのアルバムに出会い、このアルバムを愛でていた。僕が通っていた「秘密の喫茶店」でよくかけてもらった。

ハービー・ハンコックが作ったアルバムだからと言って、これは決して、ジャズでも無ければ、フュージョンでもない。徹頭徹尾、ディスコ・ミュージックである。譲って、エレクトリック・ファンク。でも、これって、やっぱりディスコ・ミュージックやな。

しかし、良く良く聴くと、やはり、ハードバップ時代から活躍してきたハービーならではとでも言おうか、このリリース当時、最先端だったディスコ・ミュージックではあるが、その演奏の中に、そのアレンジの中に、しっかりとジャズの要素、そう、ジャズの歴史を彩った「ファンキー・ジャズ」「ボサノバ・ジャズ」「ソウル・ジャズ」「ラテン・ジャズ」な要素が、隠し味の様に散りばめられており、意外とジャズ者ベテランの方々に受けの良い「ディスコ・アルバム」である。

冒頭の「Saturday Night」はラテン・ジャズ。印象的なエレギ・ソロは、ラテン・ロックの雄、ハービーの盟友カルロス・サンタナ。リズム・セクションは、Alphonse Mouzon(ds), Freddie Washington(b) が脇を固める。人間がビートを刻んでいるんだ〜、ってことがとても良く判るヒューマニズム溢れる実にアナログチックなビート。適度にラフで、適度に柔らかでエッジの丸いファンキー・ビートは、やはり、ハービーの手になる、ジャズ畑ならではのプロデュースの賜だろう。これは良く聴いたなあ。

この適度にラフで、適度に柔らかでエッジの丸いファンキー・ビートが、このアルバムの肝であり、適度にラフで、適度に柔らかでエッジの丸いファンキー・ビートであるが故に、このディスコ・アルバムは、決して、耳につかないし、決して、聴き疲れしない。
 
 
Monster
 
 
ボーカルだってそうだ。適度にラフで、適度に柔らかでエッジの丸いファンキー・ビートに乗ったファンキーなボーカルは、聴いていて実に心地良い。柔らかいというか、人間的な暖かさがあるというか、体温と同じ暖かさのボーカルが心地良い。そう、この『Monster』というアルバムは、アルバム全体の演奏の全てが、人間的な暖かさというか、対応と同じ暖かさの、実にアナログチックな演奏で固められているところが、最大の特徴だろう。

3曲目の「Go For It」は、テクノ風シンセサイザーのデジタルチックなビートとアナログ・ファンクを融合させた、人間的な暖かさがプンプンするノリノリの曲。曲の雰囲気が、いかにも、ブラック・コンテンポラリーなファンク・バンド、アース・ウィンド&ファイアを意識した曲作り。思わずニンマリする。それでも、ハービーはプライドを失わない。あくまで、ジャジーな雰囲気を底に漂わせている。これは良く聴いたなあ。

2曲目の「Stars In Yor Eyes」と5曲目の「Making Love」は、完璧なまでの「ソフト&メロウ」なソウルバラード。それでも、ロック畑の「ソフト&メロウ」とは違う、ビートの奥に、ジャジーな響きが見え隠れする。これは演奏するミュージシャンから滲みでたものなのか、はたまた、ハービーのプロデュースの賜なのかは判らないが、このビートの奥のジャジーさは、ジャズ畑のディスコ・アルバムならではのものである。実に味わい深い。

ラストの「It All Comes Round」は、完璧なディスコ・ロック。それでも、等間隔に叩きまくるビートは、少し音を引くように「粘る」。 その粘りが実にジャジー。アナログチックに粘るビートは「人間が演奏する」そのもの。

決して、後の「打ち込み」の様な無機質な感じは全くしない、人間が叩きまくる等間隔のビートであり、人間が叩きまくるが故に、等間隔のビートでも「グルーブ感」が抜群である。このラストの「It All Comes Round」、実は大好きな1曲です。むっちゃ格好良い。

もう全くと言っていいほど、フュージョン・ジャズなアルバムでは無い、完璧なディスコ・アルバムとしてリリースしたアルバムが『Monster』。ハービーが、1970年代後半に猛威をふるったディスコムーブメントに本気で相対したアルバムです。ハービーの本気度を強く感じます。

当時、真面目なジャズ者からは疎まれましたねえ。でも、僕は大好きでしたし、「秘密の喫茶店」のママさんもお気に入りでした。このアルバムがリリースされた当時、喫茶店に行くと、いつも良いタイミングで、さりげなく、このアルバムをかけて下さいました。懐かしいセピア色の想い出です。
 
 
 
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