日本向け仕様のライヴ盤 『洪水・live In Japan '75』
ジャズの世界では、日本は「ジャズ先進国」とされる。本場米国を凌ぐケースも多く、世界的に見ても、米国と比肩する、若しくは凌駕する、日本のレベルであることはもっと誇っても良い。
そんなジャズ先進国・日本である。本場米国から来日するジャズ・ミュージシャンも、基本的に気合いが入る。特に、日本の聴衆はマナーが激しく「良い」。世界のレベルからすると、圧倒的にマナーが良い。そのマナーの良さに、本場のジャズ・ミュージシャンは、そんな日本のジャズ・ファンに、少なからず「ただならぬもの」を感じ取る。
よって、日本のライブでは優れた内容のライブが多々繰り広げられてきた。伝説のライブと呼ばれる名演、名唱の記録は数知れず。とにかく、プロのミュージシャンとして、相当に気合いが入るらしい。しかも、日本のジャズ・ファンの反応は常に正しく、それぞれのミュージシャンの個性についての理解も深く、ミュージシャン側からして、適当な演奏は決して出来ない。そんな気分になるのだそうだ。
このハービー・ハンコック率いるヘッド・ハンターズのライブ盤もそんな優れた「ライブ・イン・ジャパン」ものの一枚。LPでは2枚組で発売された、充実、重厚な内容のライブ盤である。そのタイトルも『洪水・live In Japan '75』(写真左)。1975年の日本公演、収録は東京の中野サンプラザと渋谷公会堂の2カ所のライブ録音を選択している。
ちなみにパーソネルは、
ハービーハンコック (piano,rhodes,clavi,arp-synthesizer)
ベニー・モウピン (ts,ss,bcl,fl,perc)
ポール・ジャクソン (b)
マイク・クラーク (ds)
ビル・サマーズ (perc)
ブラック・バード・マックナイト(g)
セクステット構成である。しかし、このライブ盤を聴くと、とても、たった6人で出している音とは思えない、とても分厚く重心の低い重厚なファンク・ジャズが繰り広げられている。さすが、当時の第1線で活躍していた精鋭ミュージシャンの集まりである。演奏テクニックは相当のハイレベル。超絶技巧の世界であり、受け持つアドリブは流麗かつファンキーそのもの。ハービーが、1970年代初頭から積み上げてきた、電気楽器を中心にしたブラック・ファンク・ジャズ路線の集大成である。
しかし、僕の耳には、冒頭の「Introduction & Maiden Voyage」が蛇足に聴こえてならない。「Maiden Voyage」は、邦題「処女航海」、モード・ジャズをベースとした、ハービーの代表曲のひとつである。日本に来て、日本人ジャズ・ファンに対して、日本人ハービー者に対して、サービスと感謝を込めて、このモード・ジャズの代表曲のひとつ、ハービーの「処女航海」を演奏しても不思議じゃないのだが、なにも冒頭に持ってこなくても良いと思う。
これはひとえに、このライブ盤の曲順を決定したプロデュース側の問題なんだが、ハービーが、1970年代初頭から積み上げてきた、電気楽器を中心にしたブラック・ファンク・ジャズ路線の集大成としてのライブ演奏の記録である。冒頭に、エレピ演奏をベースとした「処女航海」を持ってくるとは、そのセンスを激しく疑う。譲って、アンコールよろしく、アルバムのラストへの収録だろう。
まあ、イントロダクションに続いて、メドレーの様に「処女航海」の演奏に繋がっているので、ハービー自身がこのような、冒頭に「処女航海」を持ってくる、という暴挙に出ていたのかもしれない。それでも、ライブ盤として、アルバム作品として収斂するんだから、収録順などはいかようにでもなったはずで、そう言う意味では、やはり、このブラック・ファンク・ジャズの名演ライブ盤の中に、ちょっと浮いたような「処女航海」を冒頭に持ってきたことは、プロデュース側の問題に帰結する。
このライブ盤は、当時、LP2枚組で、日本でのみリリースされた、本場米国のハービー者からすると「垂涎もの」だったそうで、そういう意味では、日本のジャズ・ファン、日本のハービー者のみの対象とした、それを意識したアルバム内容の編集になっているということ。そういう意味では、日本のジャズ・ファン、日本のハービー者のレベル、感覚を軽視したアルバム・プロデュースということも出来る。ふん、バカにするなよな(笑)。
ちなみに、この『洪水・live In Japan '75』は、素晴らしい内容のブラック・ファンク・ジャズの名演ライブ盤です。うねるようなリズム、ファンクネス厚いビート、粘り着くようなベース音、そして、そのリズム・セクションをバックに、縦横無尽にアドリブを展開するフロント部隊。そして、そのバックとフロントを統率して、時に前面に、時にバックに、リーダーとして八面六臂の活躍が凄まじいハービーのキーボード。ハービー率いるヘッド・ハンターズの頂点に当たる演奏でしょう。
日本だけのリリースということで、なんか日本での「ライブの思い出アルバム」的な編集の仕方で、ハービーのブラック・ファンク・ジャズ路線の優れたライブ演奏の記録ということにスポットライトを当てた編集になっていないところが残念なところです。「ライブ・イン・ジャパンの難しさ」をこのライブ盤では感じますね。
せっかく日本で、こんな凄い演奏が繰り広げられたのですから・・・。「ハービーのブラック・ファンク・ジャズ路線の優れたライブ演奏の記録がここに収録されているのか。おお、これは凄い、これはたまらん。ちなみにこれはどこでのライブ録音なんだ。日本か。なるほど、日本のジャズに対する見識は世界のトップレベルだからな。日本では、皆、素晴らしい演奏をするんだよな。手を抜けないし、日本のジャズ・ファンに認められたいからな」という展開になって欲しかったですね〜(笑)。
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